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鹿島アントラーズで引退のクォン・スンテは来日前から日本漫画好き アニメで聞き取り練習 (3ページ目)

  • 吉崎エイジーニョ●取材・文 text by Yoshizaki Eijinho

【日本での上下関係の感覚がわからなかった】

 アニメのイメージがほとんどすべてだった国、日本。クォン・スンテは2017年のシーズン開幕前にそこにやってきた。

 海外移籍への願望も強くなく、異文化への「予習」もしていなかった韓国の実力派GKを日本で待ち構えたのは、ある日の練習時のチームメイトの強烈な"洗礼"だった。

"お~いスンテ~ 元気?"

 8歳年下の若手選手からの挨拶だった。

 挑発してるのか?

 そう思ったスンテは本気でやり返そうかとも思った。

「韓国で先輩と言えば、礼儀を尽くすべき相手で、敬意をもって接するべきものなんですが...当初は日本語があまり理解できなかった上に、仮にそれがユーモアだったとしてもピンと来なかった。日本での上下関係の感覚もわかっていませんでしたし」

 相手はシンプルに「仲良くなりたい」と思って声をかけてきたのだった。これぞブラジル人が多く在籍してきた鹿島らしい話だ。ブラジルなどキリスト教圏では各自が「神とつながっている尊厳のある個人」(阿部謹也著『「世間」とは何か』より)と捉えているため、年齢による上下関係が希薄だ。

 一方のクォン・スンテたるや、儒教の国からやってきた。しかも軍隊で徹底的な上意下達を叩き込まれた男だ。ましてや日本は「漫画を通じたファンタジーの国」というイメージだったのだ。

「日本の選手たちを眺めていくうちに、理解ができてきたんですよ。敬語を使って話すこともあるし、リラックスして自然に会話することもある。文化的な違いなんだな、と」

後編「クォン・スンテが振り返る鹿島での7年間」につづく>>

クォン・スンテ 
權純泰/1984年9月11日生まれ。韓国江原道江陵市出身。GK。全州大学から2006年にKリーグ全北現代モータースに入団。2011-12年の尚武(兵役)でのプレーを経て、2016年まで在籍。Kリーグ優勝3回、AFCチャンピオンズリーグ(ACL)優勝2回を経験した。韓国代表では国際Aマッチ6試合に出場。2017年に鹿島アントラーズへ移籍すると、2018年のACL優勝などに貢献。7シーズンのプレーの後、2023年シーズンをもって引退を発表した。

著者プロフィール

  • 吉崎エイジーニョ

    吉崎エイジーニョ (よしざき・えいじーにょ)

    ライター。大阪外国語大学(現阪大外国語学部)朝鮮語科卒。サッカー専門誌で13年間韓国サッカーニュースコラムを連載。その他、韓国語にて韓国媒体での連載歴も。2005年には雑誌連載の体当たり取材によりドイツ10部リーグに1シーズン在籍。13試合出場1ゴールを記録した。著書に当時の経験を「儒教・仏教文化圏とキリスト教文化圏のサッカー観の違い」という切り口で記した「メッシと滅私」(集英社新書)など。北九州市出身。本名は吉崎英治。

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