「怪物くん」明神智和に見る
サッカーの本質とプロという仕事

  • 高村美砂●取材・文 text by Takamura Misa
  • photo by REUTERS/AFLO

 今日の試合も、気を遣って出したわけではなく、勝ちたいと思って、明神を先発メンバーに選びました。そういった彼の姿から、またこれまで歩んできたキャリアから、僕自身もプロとしてあるべき姿を学ばせてもらった。日本のサッカー界にとってもスペシャルな選手だったと思います」

 そうして、最後の最後まで、プロサッカー選手として戦い抜いた明神に、ラストマッチの翌日。あらためて、尋ねてみる。

――これからは、試合後のケアもしなくていいし、次の練習、試合に向けた準備をしなくていい毎日が続いていく。寂しさはないですか?

 その返答に、彼のこの24年の戦いが透けて見えた。

「昨日の試合を終えて、久しぶりの試合だったからか、体がめちゃめちゃ筋肉痛で(笑)。でも、その痛みを感じながら思ったんです。『もう、体をケアする必要も、練習に向けた準備をする必要もなくなるんだな』って。自分で言うのも何ですが、おそらく僕は、この現役生活のなかで、Jリーガーの中で1、2位を争うくらい、体に湿布を貼ってきたと思うんです。寝るときも、移動のときも。シーズン前のキャンプになると、とくに念入りに(笑)。

 また、栄養的に正しいのかはわからないけど、これまで毎日、晩御飯では必ず、お米を1合食べるようにしてきました。でも、『もう1合も無理して食べなくていいんだな』とか、『食べるものに気を遣わなくてよくなるんだな』とか、『湿布を貼って寝なくてもいいんだな』と思った時に、『ああ、引退するんだ』と実感したし、その事実を寂しく思う自分も確かにいます。

 だって、こんなすばらしい職業はないですから。いつまでも現役選手でいられるなら......60歳、70歳になってもサッカー選手でいたい。でも、やりたいだけじゃできない世界だし、やりたいだけでいたらいけない世界だから、引退なんです」

 そう話す彼に、かつてのチームメイトが話していた言葉が重なり合う。あの時も、この時も――。きっと彼はたくさんの湿布を貼って、ピッチに立っていたのだ、と。

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