イニエスタが人生初のバルサ戦で
示した人間性。「自分は幸運」 (2ページ目)
この日、前半の45分間に出場したイニエスタは、いつものように"マジックアワー"を作り出している。彼がボールを触るたびに、プレーが旋回する。適切なプレーを選択し、十分に敵を引きつけているから、味方のパスの受け手も楽なのだろう。また、敵のほころびを見破る戦術眼も高い。自陣から左足でスルーパスを右サイドの裏へ通すなど、バルサの高いラインを翻弄した。
そしてイニエスタ自身、決定機を作っている。序盤、ダビド・ビジャの足元に鋭いパスを送るが、これがわずかに合わず、相手ボールになる。その瞬間だった。イニエスタは出足の早い守備でボールを奪い返し、自身でシュートを放っている。ボールはわずかにゴール左へ逸れたが、場内を沸かせた。
大げさに言えば、イニエスタひとりでバルサと互角に戦っていたような印象だった。事実、前半は0-0と健闘。神戸は押し込まれ続けたものの、イニエスタがカウンターから際どいで好機を作っている。
「(バルサ退団を)後悔は少しも感じなかった」
イニエスタはその胸中を明かしている。
「バルサでもっとプレーしたいという気持ちが強かったら、よかったのかもしれないし、バルサの選手としてヴィッセルの選手たちを相手にプレーできたら、それも悪くなかったんだろう。でも、バルサでの僕の時間は去ってしまった。今は、違った形でフットボールを楽しみたい」
イニエスタは静かな声で言った。試合後、バルサの選手たちからユニフォームを預かったという。リュックは満タン。自分というより、チームメイトに渡すためだという。
「自分はバルサというクラブでプレーする幸運があった。でも、チームメイトは違うから」
イニエスタは説明したが、その謙虚さと優しさが彼の人間性で、それがプレーの深淵をもたらしてきたのだ。
今後、イニエスタのような選手は出てくるのか。 スペインの名将で、神戸でイニエスタを指導したフアン・マヌエル・リージョに聞いたことがある。
「ほとんど不可能だ。アンドレスはそれほどの領域にいる」
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