プロサッカーチームの監督が選手と接するときの心得 (3ページ目)
浦和を指揮していたときのフィンケ監督は、「選手の血液検査をチームの施設でできるようにしたい」とクラブにリクエストしていた。「それで選手の疲労度が分かるし、体調を崩したときでも、血液検査のいくつかの項目を調べると、回復に向かっているのかそうでないかの数値が出てくる。それを調べたい」と。そのためには、クラブ施設で採ってすぐに調べられないと意味がない。今後、(科学リサーチセンターである)「ミランラボ」を持つミランのように、医学的な情報を活用するクラブが増えていくのかもしれないが、そういった医学的な検査結果も貴重な情報となる。
そういったデータや科学的な数値なども見ながら、プロクラブの監督はスタメンを決めていくのだが、監督のほとんどは、好き嫌いで先発メンバーを決めることはしない。そんなことをしていたら、結局自分の首を絞めることになるからだ。たとえ性格的に合わない選手でも、結果を残してくれるのなら使う。あるいは、人気のある選手でもチーム全体にいい影響がなければ起用しないなど、自らの感情を排して、スタメンを考えなければいけない。
たとえば、マンチェスター・シティのマンチーニ監督は、2年ほど前にカルロス・テベス(アルゼンチン代表)とかなり揉めたが、その後も今も、平然と起用している。険悪な関係にあると報道され、「絶対に使わない」と言っておきながら、しばらくすると何事もなかったかのようにテベスを使った。心情的には使いたくない選手でも、結果を残せるのであれば割り切って起用するというひとつの例だろう。
その場合、『あれだけ勝手な行動をしても使われるのかよ』と、ほかの選手に思われてしまうと、マネジメントが難しくなる。そういった問題は、世界中のプロサッカーチームで起こりうることだろう。そのバランスを十分考えて選手起用をしなければいけない。
こうしたケースも含めて、選手とどう接してどう起用すればいいかは、なかなか難しいものだ。プロサッカークラブの監督は、自分の振る舞いが周囲へどんな影響を与えるのかを常に意識して行動しなくてはいけない。
そして、どんな監督も、そうしたさまざまな要素を十分に理解したうえで、相当悩んで、考え抜いて試合の先発メンバーを決めていると思う。Jリーグや日本代表の試合を観戦するときに、そのことを想像して、スタメン表を眺めてみてほしい。
著者プロフィール
福田正博 (ふくだ・まさひろ)
1966年12月27日生まれ。神奈川県出身。中央大学卒業後、1989年に三菱(現浦和レッズ)に入団。Jリーグスタート時から浦和の中心選手として活躍した「ミスター・レッズ」。1995年に50試合で32ゴールを挙げ、日本人初のJリーグ得点王。Jリーグ通算228試合、93得点。日本代表では、45試合で9ゴールを記録。2002年に現役引退後、解説者として各種メディアで活動。2008~10年は浦和のコーチも務めている。
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