プロサッカーチームの監督が選手と接するときの心得
クラブチームでの経験を代表チームで発揮しているザッケローニ監督
フォーメーション進化論 vol.40
1992年の10月、代表合宿でオフト監督(当時)に「最近どうだ?」と話しかけられたことがあった。まだJリーグ創設の前だったが、「何か契約で問題でもあったのか?」と聞かれた。
私自身はとくに何の問題もなかったので、この時は「普段はそんなことは聞いてこないのにどうしたんだろう?」と思っていた。しかし、監督という仕事を意識するようになってからは、監督が選手とコミュニケーションをとることの重要性を理解しているので、オフト監督の行動が納得できるようになった。監督は選手やコーチ、チームスタッフなどに声をかけることでその反応を見て、次の試合への準備をしているということだ。
あのときのオフト監督の行動は、監督は常に情報収集をしなくてはいけないということをよく表していると思う。そして、その情報を有効に活用しなくてはいけない。
同時に、「組織のトップは自分にとって耳障りなことも聞き入れられないとダメだ」とよく言われるように、監督は嫌なことも良いことも、すべて聞き入れていく度量がないといけない。情報をシャットアウトしてしまうと、判断が独善的になりかねないからだ。選手が、多くの情報を集めるためにピッチで『首を振れ』とコーチから言われるのと同様、監督はさまざまな人の意見や考えを聞くべきだろう。その情報を判断材料にして、練習メニューを考え、スタメンを決め、チームを作っていく。
監督は先発メンバーを決めることができる絶対的な権限を持つ存在だ。選手を試合に起用することで、あるいは起用しないことで選手のモチベーションを上げることも下げることもできる。
試合に使うことで、あるいは使わないことで、選手に何かを気がつかせることもある。たとえば、若い選手がミスをしたとき、監督が前半の早い時間に代えてしまったとする。そして、監督はその選手に何も言わない。なぜなら、交代させられたことで、その若手に、自分のプレイのどこが悪かったのか自分で考えてほしいと思っているからだ。
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著者プロフィール
福田正博 (ふくだ・まさひろ)
1966年12月27日生まれ。神奈川県出身。中央大学卒業後、1989年に三菱(現浦和レッズ)に入団。Jリーグスタート時から浦和の中心選手として活躍した「ミスター・レッズ」。1995年に50試合で32ゴールを挙げ、日本人初のJリーグ得点王。Jリーグ通算228試合、93得点。日本代表では、45試合で9ゴールを記録。2002年に現役引退後、解説者として各種メディアで活動。2008~10年は浦和のコーチも務めている。