【名波浩の視点】川崎Fが変わった。開幕戦で見えた3つの上積み (2ページ目)
期待のジェシは、評判どおりの実力を見せた。かつてジュビロ磐田で活躍したアジウソンに似たタイプで、高さもあり、足もともしっかりしている。加えて、周りによく声をかけていて、コミュニケーション能力の高さも感じられた。森下との連係もよく、ふたりは自分のエリアを捨てて、危険なところをケアする読みも抜群だった。例えば、ジェシがボランチの後ろにスッとカバーに行けば、それに伴って森下も効果的にジェシのカバーに入るなど、周囲の状況をよく考えて、連動した守備をこなしていた。
さらに3人は、時間の作り方と使い方も良かった。GKの西部は、相手に押され気味だった序盤、ボールをすぐに手放さずにゆっくりキープし、味方にひと呼吸置かせる時間を作っていたし、センターバックのふたりは単純なクリアをせずに、きちんとボールをつないで、リズムを作ろうとしていた。これまでの川崎Fとはひと味違って、相馬直樹監督が目指しているコンセプトに沿ったプレイを披露していたと思う。
また、攻撃陣ではレナト(←ポンチプレッタ/ブラジル)と小松塁(←C大阪)も存在感をアピール。特にレナトは、ガンバ大阪で得点王になったアラウージョのようなタイプで、重心が低く、高いキープ力からチャンスを作っていた。鹿島アントラーズに移籍したジュニーニョのように、ライン際に張っていて、そこから切れ込んでシュートとか、左足のクロスを上げるとか、型にはまった選手でないのも、中盤の選手にとってはやりやすいのではないだろうか。
こうした攻撃陣が加わったことで、昨年はシーズン通して苦労した中盤の組み合わせもうまく固まりそうだ。とりわけ、チームの主軸である中村憲剛のポジションが、本来のボランチにはっきり固定できたことは大きい。この試合でも安定したプレイぶりで、コンビを組む柴崎晃誠や2列目の田坂祐介とともに、前線のレナトや小松にいいパスを配球していた。これも、昨季からの上積みと言えるだろう。
そして、もうひとつの好材料は「競争」だ。つまり、今季はポジション争いが激しくなって、チーム力は確実に上積みされている。なにしろ、GKは新加入の西部が先発し、昨季レギュラーだった杉山力裕はベンチで、五輪代表の安藤駿介はメンバー入りを果たせないほど。右サイドバックも、昨季30試合に出場した田中裕介がベンチで、代わりに先発した實藤友紀が結果を出した。他にも、稲本潤一をはじめ、楠神順平や、昨季12ゴールを記録した小林悠らがベンチに控え、この厚みを増した選手層を見れば、昨季のように低迷することは考えにくい。
あとは、点をどれだけ取れるかどうかが上位進出へのカギになる。それでも、これまでは大量点を取って勝利する一方で、負けるときはあっさり敗れることも多かったが、この日は最後まで耐えて1-0で勝利を拾った。こういう試合ができていれば、過去にも優勝できていたと思うだけに、チームとして新たな一面を出せたことを自信にして、今季の飛躍を目指してほしい。
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