最優秀選手にヴィニシウスを選ばなかったのはなぜ? 森保一監督の投票に透けて見えた「志向」
連載第20回
杉山茂樹の「看過できない」
正式名称「ザ・ベストFIFAフットボールアワーズ」は、FIFA(国際サッカー連盟)が毎年発表する、その年に最も活躍した個人を表彰する式典である。男子の最優秀選手賞を受賞したのはヴィニシウス・ジュニオール。最優秀監督にはカルロ・アンチェロッティが輝いた。レアル・マドリードの15回目のチャンピオンズリーグ(CL)優勝に貢献したふたりである。その結果が色濃く反映された結果と言える。
一方、先月発表されたバロンドールはロドリ(マンチェスター・シティ)が受賞した。ユーロ2024を制したスペインの中心的な選手との位置づけだろう。ユーロとCL。どちらを重視するべきか、これは難しい問題である。レアル・マドリードの会長、フロレンティーノ・ペレスは、バロンドールの授賞式への参加を「結果に納得できない」と辞退したほどだ。
ユーロを制したスペイン代表には、ロドリ以外にも貢献度が高い選手は存在した。当時16歳だったラミン・ヤマルを最上位に推す声があったとしても不思議はない。一方でCLを制したレアル・マドリードからひとりを挙げるならば、ヴィニシウスで決まりだろう。ジュード・ベリンガムとの差は大きい。この左ウイングの存在なしに、CL優勝はなかったと断言することができる。それほど圧倒的な存在だった。ペレス会長の言い分に納得したくなる。
もっとも、バロンドールの投票ではロドリとヴィニシウスとの差はわずか41ポイントだった。ロドリの1170ポイントに対しヴィニシウスは1129ポイント。3位ジュード・ベリンガムがヴィニシウスと212ポイント差の917ポイントだったので、賞はふたりのマッチレースだったことがわかる。
バロンドールを主催するのはフランスのスポーツ新聞『レ・キップ』だ。投票権が与えられているのは各国のジャーナリストである。それに対し、FIFA最優秀選手賞は各国の代表チームの監督とキャプテンだ。日本から2024年の投票に及んだのは森保一監督と遠藤航キャプテンであることは言うまでもない。
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著者プロフィール
杉山茂樹 (すぎやましげき)
スポーツライター。静岡県出身。得意分野はサッカーでW杯取材は2022年カタール大会で11回連続。五輪も夏冬併せ9度取材。著書に『ドーハ以後』(文藝春秋)、『4-2-3-1』『バルサ対マンU』(光文社)、『3-4-3』(集英社)、『日本サッカー偏差値52』(じっぴコンパクト新書)、『「負け」に向き合う勇気』(星海社新書)、『監督図鑑』(廣済堂出版)、『36.4%のゴールはサイドから生まれる』(実業之日本社)など多数。