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【プレーバック2024】因果応報の風景 サッカー日本代表、カタールの奇跡からのアジア杯惨敗はなぜ起きた?

  • 小宮良之●取材・文 text by Komiya Yoshiyuki

集中連載「勝負に祈る時 アスリートたちの明暗」(1)

 戦いの天秤は簡単に傾く。それゆえ、古の武人は神仏に祈りを捧げたし、戦国時代の軍師は吉兆を占い、政争において呪詛がつきものだった。

 現代のアスリートたちも少なからず、勝負が「運」に左右されることを知っている。その運は心に通じる。わずかな心の傾きが、勝負の天秤をひっくり返す。だから彼らは平常心を保つため、勝負に祈る。それでも時に得体の知れない磁力に引っ張られてしまうのだが......。

 2024年を振り返る集中連載「勝負に祈る時」(全4回)では、勝敗の裏にある、アスリートたちの心の持ちように焦点を当てることにした。サッカー・森保ジャパン、卓球・早田ひな、サッカー・久保建英、バレーボール・髙橋藍、彼らは何と戦っていたのか?

イランに敗れ、肩を落とすGK鈴木彩艶ら日本代表 photo by Kyodo Newsイランに敗れ、肩を落とすGK鈴木彩艶ら日本代表 photo by Kyodo News

【「もう一度やったら、イラクもイランも日本に勝てない」】

 今年1月、カタールで開催されたアジアカップ。森保一監督が率いる日本代表は、「アジア王者最有力候補」だった。

 「絶対に負けられない戦い」

 テレビ局の煽り文句は、もう時代遅れだろう。多くの有力な日本人選手が欧州各国リーグでプレーする時代、戦力面ではアジア諸国を完全に凌駕している。

 プレミアリーグ、ラ・リーガで堂々の主力となっている三笘薫(ブライトン)久保建英(レアル・ソシエダ)は規格外だし、チャンピオンズリーグで足跡を記す南野拓実(ASモナコ)守田英正(スポルティング)、古橋亨梧(セルティック)も明るい希望だろう。ケガや起用法でなかなかピッチに立てないが、冨安健洋(アーセナル)、上田綺世(フェイエノールト)、遠藤航(リバプール)も実力者だ。

 これだけの陣容で、日本がアジアで負けることは「失態」と笑われても仕方ない。しかし、森保ジャパンはグループリーグでイラクに1-2と敗れた後、準々決勝でイランに1-2と敗れ、早々と大会を去っている。笛吹けども踊らず、GK鈴木彩艶は悪い業をすべて背負ったようにミスを連発し、一敗地にまみれた。

 「もう一度やったら、イラクもイランも日本に勝てない」

 そうした声は多い。では、何が勝負を分けたのか?

 2022年の年末、カタールWを取材した筆者は立て続けに大番狂わせを目撃している。森保ジャパンはドイツ、スペインというW杯優勝国を次々に撃破し、ベスト16に勝ち上がった。

 「カミカゼ」

 スペインメディアにそう言われるほど、大きな波乱を起こした。それは奇跡に近かった。しかし、多くの出来事がそうであるように、偶然だけで奇跡は起きない。そこにはたいてい「必然」がある。

 森保ジャパンの必然は、まず「弱者であることを認める」ということだった。相手の嫌がる守りを徹底的に張り巡らせ、粘り強く戦い続け、自分たちは危険を冒さない。不格好に身を固めながら、あくまで隙を突く"弱者の兵法"だった。それが勝敗を動かす梃(てこ)になったわけだが......。

 そこに違う力を加えたのが、同年にフランクフルトでヨーロッパリーグ優勝を成し遂げていた鎌田大地だ。

 「前半は、間違いなく相手をリスペクトしすぎていて......」

 2-1と逆転勝利を収めた初戦のドイツ戦後、鎌田は語っていた。その自負心こそ、カミカゼの正体だった。

 「みんな、プレーすることを怖がっていたというか、せっかくボールを奪っても、リスクなしで蹴ってしまって、ひとつつなげれば、もっとチャンスになったはず。自分たちが下がりすぎ、後ろの人数が余ってしまい、(プレスも)ハマっていなかった。自分もほとんどボールを触れなかったし、どこにポジションを取っても(状況を)変えられなくて臆病だったし、あのまま終わるのは恥ずかしいと思っていました」

 01で前半を折り返したハーフタイム、鎌田を筆頭にした攻撃陣がそれを「善戦」と受け止めていたら、逆転の糸口はつかめなかった。ピッチに立った選手たちが欧州で積み重ねた技術と実力に自負があるからこそ、与えられた弱者の兵法に革新を起こした。堂安律、浅野拓磨のゴールが決まった。

 〈ドイツにも、スペインにも負けない〉

 多くの選手が本場で戦い、そのメンタリティを持つことができていた。相手の成すがままの展開を「恥」と思える境地だ。

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著者プロフィール

  • 小宮良之

    小宮良之 (こみやよしゆき)

    スポーツライター。1972年生まれ、横浜出身。大学卒業後にバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)、『アンチ・ドロップアウト』(集英社)など。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。パリ五輪ではバレーボールを中心に取材。

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