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【プレーバック2024】因果応報の風景 サッカー日本代表、カタールの奇跡からのアジア杯惨敗はなぜ起きた? (2ページ目)

  • 小宮良之●取材・文 text by Komiya Yoshiyuki

【弱者の兵法に敗れる皮肉】

 しかし、ラウンド16ではPK戦の末にクロアチアに敗れ、悲願であるベスト8には勝ち進めなかった。いざ、主体的な戦いで勝利を収めようとした時、弱者の兵法を捨てきれなかったのだ。

 「(ベスト8以上になるためには)自分たちがボールを持って、攻撃する時間を長くする」

 大会後、森保監督も今後の課題を挙げていたが......。翻って、アジアカップではなぜ敗れ去ったのか?

 皮肉にも、日本は弱者の兵法に敗れた。日本がドイツ、スペインにしたように、アジアの伏兵たちは日本を格上と崇めて研究し、守りを固め、カウンター一本に絞ってきた。試合を通して優勢だった日本が、どこかで気のゆるみを生じさせるのを待っていた。一発を狙う集中力もあった。

 それは因果応報の風景だったと言えるだろう。

 カタールW杯、日本は薄っすらと慢心を感じさせたドイツ、スペインを打ち破った。例えば、ドイツ代表DFアントニオ・リュディガーのふざけた走りにはおごりが滲み出ていた。そこで日本は自負心をたぎらせ、会心の一撃を食らわせたのである。

 一方、アジアカップの日本の選手たちは、心ここにあらずだった。欧州でプレーする多くの選手は、シーズン途中で大会に参加。たとえアジアカップで優勝しても、彼らには大きな栄誉にはならない。自分のクラブで得られる勲章の方が大きく、アジアで戦っている間、ポジションが脅かされる可能性もあった。

 心の持ちよう。それがふたつの波乱を生み出した。カタールの奇跡からのアジア杯惨敗は、表裏一体であるサッカーというスポーツの真実だ。

著者プロフィール

  • 小宮良之

    小宮良之 (こみやよしゆき)

    スポーツライター。1972年生まれ、横浜出身。大学卒業後にバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)、『アンチ・ドロップアウト』(集英社)など。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。パリ五輪ではバレーボールを中心に取材。

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