パリオリンピックでエース細谷真大が目覚めの一撃! メダル獲得を左右する価値あるゴール (2ページ目)

  • 浅田真樹●文 text by Asada Masaki

 ただし、そうは言っても、細谷はセンターフォワードである。
 
「小さい頃からFWをやりたかった」と言い、「点を取るっていう意識は、小学生の時でも強く持っていた」という生粋の点取り屋が、チャンスメイクだけで満足できるはずはなかった。

 今季の細谷はJリーグでもゴール欠乏症に苦しみ、これまでJ1で19試合に出場するも、わずか2ゴールしか挙げられていない。大事なオリンピックイヤーのシーズンとしては、かなり心配な状態にあったと言ってもいいだろう。

 だが、悩めるエースストライカーは、先のU23アジアカップ(兼パリ五輪アジア最終予選)では、準々決勝でチームを救う決勝ゴールを決めると、勝てばパリ行きが決まる準決勝でも2試合連続となるゴールを決めている。

 ストライカーがスランプから脱する最高にして唯一の良薬はゴールだと言われるが、まさにそのとおりなのだろう。

 だからこそ、決勝トーナメントを前に、細谷が1点取ったことの意味は大きい。

 細谷はピッチ上で喜怒哀楽を表に出すタイプではなく、常に淡々とプレーを続ける。取材をしていても、点を取った試合であろうと、取れなかった試合であろう、冷静な対応が印象的な選手だ。

 点が取れないときでも、「ひとりで考えるタイプ」だとは本人の弁だが、それもイメージどおりだと言ってもいいのかもしれない。

 一昨年のインタビューのなかでも、細谷は「たとえ決定機を逃したとしても、メンタルを落とさずにシュートの意識を強く持つことが必要だとは感じる」と語り、こう続けている。

「特別に(前向きな気持ちでいようと)意識しているつもりはないですけど、決定機を外すと、自分もそうですけど、誰しも一回は絶対に落ち込んでしまう。そこで試合中に、どうメンタルを(高く)保つかっていうのはFWとして難しいところでもあるので、そこは練習からしっかりと意識してやっているところはあります」

 はたして生まれた、イスラエル戦での決勝ゴール。右からのクロスをワンタッチでゴール右スミに流し込んだシュートは、かなり難易度が高いものだったはずだが、それをいとも容易く、落ちつき払って決めるあたりは、さすがエースストライカー。メンタルを落とさずにプレーを続けてきたからこそのゴールだっただろう。

 有り体に言えば、イスラエル戦で細谷のゴールが決まろうと、決まるまいと、日本がグループリーグを首位通過するという点において大きな違いはなかった。しかし、細谷の今大会初ゴールが生まれたことは、ただ単に勝ち点1を3に変えただけではないはずだ。

 パリ五輪のすべての戦いが終わったとき、あのゴールが日本の勢いをさらに加速させ、56年ぶりのメダル獲得を大きく手繰り寄せたと言われるような、価値あるものになっている可能性は十分にある。

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