トルシエが語る、カタールW杯の5人交代制とVARの導入。「サッカーを変えた。そしてサッカー大国と小国との差を縮めた」

  • 田村修一●取材・文 text by Tamura Shuichi
  • photo by Kyodo News

フィリップ・トルシエの哲学
連載 第3回
カタールW杯と森保ジャパンを語る(1)

 フィリップ・トルシエは、カタールW杯の準決勝、決勝を現地ドーハで観戦した。カタール政府とカタールサッカー協会からの公式招待である。

 カタールの首長であるタミーム・ビン・ハマド・アール=サーニーと、その弟でカタールサッカー協会会長のハマド・ビン・ハリーファ・ビン・アフマド・アール=サーニーと初めて会ったのは、1998年の夏。フランスW杯のあと、カタール代表監督のオファーを受けたトルシエがドーハに招かれた時だった。

 この時は日本代表監督に内定していたため、そのオファーは断ったが、当時はまだ若かった王子ふたりとの親交はその後、トルシエがカタール代表監督(2003年~2004年)に就任した際に深まり、以降、20年近く経った今日も良好な関係は続いている。

 自身の体調不良による膝の手術の延長、キャンセルで、トルシエは今回のカタールW杯期間中のすべての予定を変更せざるを得なかった。大会前の日本と、大会後のベトナム訪問は中止。それでも、期間を大幅に縮小してまでドーハを訪れたのは、思い出深い地における"フェスタ"の最後を見届けたい、という強い思いがあったからだった。

 トルシエが体験したのは、過去に例を見ないW杯だった。彼は言う。

「大会そのものが、とてもいいコンディションのもとで開催された。参加したどのチームも、すばらしい環境のもとでプレーに専念できた。ホテルも移動も練習場もすべてすばらしく、まるでホームで戦っているような心地よさを感じた。

 そのうえ、スタンドを埋め尽くしたサポーターもクオリティが高く、大きな成功を収めた大会だったと言える」

 カタールは、選手たちが最高のサッカーを実践できる舞台を用意した、と彼は言う。加えて、全体的な雰囲気もよかったと。トルシエが続ける。

「W杯はピッチの上だけの大会ではない。もっとトータルなもので、海外からも多くのサポーターや関係者がカタールを訪れた。役員や使節団は大いに歓待され、彼らはイスラム世界を存分に体験することができた。中東の世界が大きく豊かに変わったことを肌で体感したことだろう。

 加えて、習慣の違いを十分に尊重し合えたと思う。両者(イスラム諸国とそれ以外)の間にはひとつの調和があった。死者の出る大きな事故も、セキュリティの問題も、何もなかった」

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