トルシエがデシャンを評価していなかった理由。「彼のコーチングは戦略的ではない。従来どおり3人の選手交代を行なうだけ」

  • 田村修一●取材・文 text by Tamura Shuichi
  • photo by JMPA

フィリップ・トルシエの哲学
連載 第3回
カタールW杯と森保ジャパンを語る(2)

5人交代制とVARがサッカーを変えた>>

 カタールW杯ではVARと5人交代制により、監督はこれまでとは別の決断を下すことが可能となり、異なるコーチングを実践できるようになった。その結果、「サッカーは正しい方向に進化した」とフィリップ・トルシエは言う。ではそれは、具体的にはどんなものであるのか。

 アルゼンチン代表のリオネル・スカローニと、フランス代表のディディエ・デシャン。決勝に進んだふたりの監督を例にトルシエが語る。

「スカローニとデシャンのマネジメント戦略は、同じであったと言える。それは、チームの出来に深くかかわっていた。

 大会に臨むにあたり、アルゼンチンやフランスのような大国は、中心選手――経験のある選手たちに、ある種の特権を与える。監督は選手の同伴者であり、監督が頼りにするのはその12~15人の選手たちだ。

 彼らが作り出す雰囲気を損なわないように最大限の注意を払う。人間的なエネルギーを彼らに注ぎ込む親密なサポートだ。あるのは、全面的な信頼関係であり、実際に試合を戦うそのグループに、ある種の優先権を与えるのは自然なことでもある」

 具体的には、スタメン組とサブ組、あるいはスタメンとスタメン以外の選手のグループに分け、ふたつを区別することである。両者に対する監督の信頼に差が生じるのは、自然なことであるとトルシエは述べる。

 その点では、デシャンとスカローニの違いはない。違いが生じたのは、"結果"が出てからだ。初戦でサウジアラビアに敗れたスカローニは、チームに修正を加えねばならなかった。

「(サウジアラビアに敗れて)彼は、中心選手たちを信頼し続けられないことに気づいた。彼らは他の選手たちから信頼を得ていなかったかもしれないし、持てる力のすべてを発揮していなかったかもしれない。

 そこで、スカローニはサウジ戦後に選手を代えて、直ちにグループを修正した。それは、信頼関係に重きを置く人間的な戦略の対極にある、メカニカルな戦略(機能的な戦略)だった。スカローニのメカニカルなコーチングは、アルゼンチンのすべての試合で見ることができた」

 デシャンは違った。フランスもグループリーグ最終戦でチュニジアに敗れたが、突破を決めたあとの敗戦であり、ターンオーバーにより主力を温存しての敗戦だった。すなわち、ノックアウトステージでの戦いでは、再び主力組に戻して戦えばいいことを示していた。何も修正の必要のない敗北であった。

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