森保にあって、デシャンにはなかったのもの。ゆえにトルシエは、フランス代表への危惧を強めていた

  • 田村修一●取材・文 text by Tamura Shuichi
  • photo by JMPA

フィリップ・トルシエの哲学
連載 第3回
カタールW杯と森保ジャパンを語る(3)

5人交代制とVARがサッカーを変えた>>  トルシエがデシャンを評価しない理由>>

 カタールW 杯において確かにフランスは、ドイツ戦、スペイン戦の日本や、アルゼンチン戦のサウジアラビアのように、試合中に戦術を大きく変えることなく、効率的に得点ができた。その結果、攻撃に費やす時間帯と守備に専念する時間帯を、試合のなかでうまく配分することができたのだった。

「それは、彼らが自然と身につけた成熟であり、相手を脅かすことができるチームが持つ属性だ。フランスは相手を脅かせる。プレーの出来が悪くとも、試合には勝てる。

 だが、モロッコにはそれはできない。モロッコが勝つには、100%の力を出しきらねばならない。日本も同じで、100%の力が必要だ」

 それに比べて「フランスは違う」と、フィリップ・トルシエが続ける。

「(フランスには)世界チャンピオンとしての落ち着きがあり、相手がフランスに怯える。試合前から相手にネガティブな影響を与えている。モロッコにもネガティブな影響を与えた。『相手はフランスだ。守らねばならないし、プレスをかけねばならない』と彼らは思った。

 フランスはそうではない。自然な落ち着きを持って試合に臨んだ。これが、経験の持つ重みであり、フランス代表が持つステイタスの重みだ。

 ドイツにも、スペインにも、ブラジルにもステイタスがある。ドイツはグループリーグで敗退したが、頭のなかでは来年のEURO優勝を狙っている。ブラジルも敗れたが、ブラジルのままだ。明日、ブラジルが試合をすれば、誰もが恐れを抱くだろう」

 日本は逆で、常にネガティブな影響を受けている。それは、日本には世界のトップ10のステイタスはなく、あるのはトップ30のステイタスであるからだとトルシエは言う。

「トップ10の国がネガティブな影響を受けることはない。『恐れは何もない』というポジティブな影響しかない。トップ10に入るためには、ヨーロッパで生まれた選手が必要だし、チャンピオンズリーグでプレーする選手が必要だ。そうしたことがステイタスを生み出す。日本はまだ、その域に達してはいない」

 ここで、ひとつの疑問が生じる。1998年フランスW杯で初優勝して以来、フランス代表の強さのひとつは、選手の団結ではなかったのか。

 準優勝した2006年ドイツW杯、ラウンド16のスペイン戦を前にフランスは、選手たちが決起集会を開き「ともに生き、ともに死ぬ」のスローガンのもとに一致団結した。以降、グループリーグとは見違えるパフォーマンスを発揮したフランスは、決勝への階段を登って行ったのだった。

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