トルシエがデシャンを評価していなかった理由。「彼のコーチングは戦略的ではない。従来どおり3人の選手交代を行なうだけ」 (3ページ目)

  • 田村修一●取材・文 text by Tamura Shuichi
  • photo by JMPA

 最初に「デシャンのコーチングは戦略的なものではない」と、トルシエは言った。

「彼のコーチングメソッドは、従来どおりの3人の選手交代を行なうだけだ。それも、だいたい75分以降で、それ以前は原則として交代しない。

 彼が代えるのは、体調不良や疲労、ケガでプレー続行が難しくなった場合だ。あるいは、歓喜の表現としての交代だ。勝利を祝福する意味も兼ねて、85分過ぎに選手をピッチに送り込む。いずれにせよ、以前からあるやり方だ」

 カタールW杯は、選手交代が3人から5人に増えたことで、試合中に監督の大幅な戦術変更が可能になった初めての大会だった。VARの導入による判定の公正化も相まって、ジャイアントキリングがこれまでになく頻発し、いわゆる大国と小国の力の差も縮まり全体のレベルも向上した。

 だが、デシャンは5人交代制のメリットを生かすことなく、従来どおりの選手起用とコーチングを行ない続けたのだった。

「5人の交代で戦術的な変更を加えられるようになっても、デシャンはこの戦略を採用してはいない。準々決勝のイングランド戦も、彼はウスマン・デンベレひとりしか代えなかったし、昨日(準決勝)のモロッコ戦もふたり(オリビエ・ジルーとデンベレ)を代えただけだった。それも、75分を過ぎてからだ(注:実際には65分と78分)」

 デシャンのメソッドは"人間的"なものであると彼は言う。人間的とは、監督と選手の人間関係を重視し、特定の選手たちを信頼することで、チームの結束を強固にするやり方である。

「しかしそれは、さらなるエネルギーをチームに生み出すために人間的なのではなく、ある選手たちを保護するためのものだ。彼は、チームの人間的なバランスを崩そうとはしない。とりわけ、アントワーヌ・グリーズマンやジルー、ラファエル・バランら経験豊かな選手を護ろうとしている。彼が作り出したのは、脆さを伴う小さなグループだ」

 フランス代表のベンチは長くはない。要するに、交代選手の数が限られているということであり、それは大会前から指摘されていたことだった。

「デシャンは多くのカードをきることができない。グリーズマンやキリアン・エムバペ、ジルー、バランらは強力なカードではあるが、彼らが欠けたらグループは即座に弱体化する。彼らに代わるエネルギーを注入できないからだ。

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