前田大然、浅野拓磨、伊東純也......。100mを走ったら誰が一番速いのか。元陸上オリンピアンがサッカー日本代表の走り方を解説 (2ページ目)

  • 篠 幸彦●取材・文 text by Shino Yukihiko
  • photo by JMPA

前田大然は攻守で常にインテンシティが出せる走り方

 古橋選手は、先ほどの3人と比べると、根本的なスピードが速い印象は持っていません。素の速さよりも、動き出しの速さやタイミングの取り方がうまい印象で、タイプ的には岡崎慎司選手と同じですね。

 一定のスピードはありますが、相手との駆け引き、動き出す判断のよさがあった上で、2、3歩でスピードに乗るのがうまいという解釈が正しいでしょう。長い距離を走るとなると、先ほどの3人には劣ってしまうと思います。

 前田選手もまだ技術的に粗いところはありますが、走る時のリズムの取り方、しっかり脚を前に出すという点で、他の4人よりも優れていると思います。それがあることで攻守において常にインテンシティ(強度)が出せていて、なおかつそれが90分間できている要因だと思います。

 日本代表やセルティックの試合を見ていて、彼がコンタクトプレーにも強いのは、単に体が強い、筋力があるというだけではなく、リズムの取り方、脚をしっかり前に運べるところも起因しています。

サッカー選手に大事なのは"加速力"

 サッカー選手の走りのなかで大事な能力は、"加速力"だと思っています。サッカーでは5m、長くても30mくらいのなかで、どれだけ早くトップスピードに到達できるかがとても重要です。

 スピードというのは右肩上がりで曲線を描いて上がっていくんですが、陸上の短距離種目の場合はその曲線がなるべく急角度で上がっていくようにして、最高速に乗ったらそれを維持するのが大事になります。短い距離のスプリントを繰り返すサッカーにおいても、急角度でスピードを立ち上げる加速力が求められます。

 たとえば、Jリーグと世界最高峰のイングランドプレミアリーグを比べると、その加速力の部分で明らかな差があると感じます。戦術やフォーメーションという要素だけでなく、選手たちの急加速する能力が高いことで、1対1の局面での選手間の距離が近くなります。

 最近はトランジション時の判断を早くとか、トップレベルになると判断ではなく、反射的に動き出してシームレスに攻守が切り替わる時代になっていますよね。プレミアリーグの選手は判断が速いだけでなく、加速も速いことで、試合ではあれだけのスピード感が生まれて、コンタクトも激しくなるわけです。

 プレミアリーグやラ・リーガ、ブンデスリーガなど、日本のサッカーが欧州トップレベルに追いつきたいのであれば、ここは避けては通れない要素ですね。

 わかりやすい例で言えば、ロシアW杯で日本がラウンド16で敗れたベルギー戦。アディショナルタイムでベルギーに決められた決勝ゴールですね。いろんな要素があるなかで、初動の加速の差でケビン・デ・ブライネのドリブルに、素走りの日本選手は追いつけなかったということになります。

 たとえ最高速度が同じでも加速時に差をつけられると、もう追いつくことはできません。あの場面を見るだけでも、日本人選手が加速能力をつけるのは、大きな課題だと思います。

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