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小川航基は再び這い上がる。
「自分はエリートなんかじゃない」 (3ページ目)

  • 飯尾篤史●取材・文 text by Iio Atsushi
  • 佐野美樹●撮影 photo by Sano Miki

 続くシリア戦では、上田にスタメンの座を譲った。そのシリア戦、1-1で迎えた終盤のことである。

 日本はすでにふたりの交代選手をピッチに送り出していた。残る交代枠はひとつ。残り時間は5分弱。その時、小川はビブスを脱ぎ、ユニフォーム姿になってベンチ前に立っていた。まるで「俺を使ってくれ」と訴えんばかりに......。

 3人目の交代選手として選ばれたのは、旗手怜央(順天堂大→川崎フロンターレ)だった。出番のなくなった小川は、しかし、ユニフォーム姿のまま立ち続け、タイムアップの笛を聞いた。

「使ってほしかったという思いもあったし、2連敗するチームを自分が助けられなかった。非常に悔しい気持ちでした。できれば、出場して点を獲りたかった」

 カタールとの最終戦の前日、小川はこの時の思いを吐露した。そして、カタール戦でのゴールを誓うのだ。

「相手は守ってカウンターというサッカーなので、FWにボールが入る回数がどうしても少ない。どれだけ我慢して、前線で駆け引きを続けられるかが大事になる。チャンスは1、2回しかないかもしれないけど、その1、2回のチャンスをしっかりモノにする力が自分にはあると僕は思っているので、そこを期待してもらえればと思います」

 72分、その瞬間がやってきた。バイタルエリアで食野亮太郎(ハーツ)のパスを引き出すと、迷わずシュートへと持ち込み、右足を強振する。グラウンダーのシュートはGKの手をかすめてネットを揺らした。

「食野はいつもなら強引にドリブルシュートに持っていく。それが彼のよさでもありますけど、『バイタルでもうちょっと顔を上げて、俺のことを見てほしい』と伝えていた。いいコミュニケーションが取れての先制点だったんじゃないかと思います」

 その瞬間、両拳を握りしめ、胸の前で小さなガッツポーズを繰り返した。

 実は前々日のシュート練習の際にもシュートを決めたあと、このガッツポーズを見せていた。それだけゴールに飢え、秘めた想いを抱えていた証だろう。

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