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【プロ野球】"鬼軍曹"の指導哲学 西武・鳥越裕介ヘッドが語る「逃げない」「妥協しない」チーム再建論 (3ページ目)

  • 中島大輔●文 text by Nakajima Daisuke

「イップスをつくったら、コーチをやめようと思いました。高校生の時にできていたことが、プロに入ってできなくなるというのは、その子を下手にしているので。そうしたら、私にはコーチの資格がないと思いました。その緊張感は常に持ってやり始めたので、(厳しくなったのは)そこからですかね」

 プロ野球には、意外とイップスの選手が少なくない。それほど極限の緊張感で周囲や自身と向き合っているのだろう。

 鳥越コーチが長らく見てきたなか、技術から精神が崩れる者がいれば、その逆もいた。

「たとえば、投げる順番が崩れたとします。しっかり投げるための順番をちゃんとわかってもらうように取り組めば、それなりには直りますよ。ただし、失敗をする期間が長くなればなるほど、恐怖と戦わなければならない。失敗が多くなっているので」

 ソフトバンクのコーチ時代、イップスを抱えていたひとりが内川聖一氏だった。鳥越コーチ自身はスローイングに悩んだことがないが、2011年にフリーエージェント権を行使して横浜(現・DeNA)から移籍してきた内川氏が守備練習に取り組む姿を見ていると、並々ならぬ胸の内を感じさせられた。

【内川聖一に言った「逃げるな」の真意】

 転機になったのはソフトバンク入団6年目の2016年、レフトからファーストへのコンバートだった。大きな挑戦を前に、鳥越コーチはこう声をかけた。

「逃げるな。おまえには、打つことに関して誰よりも神様から授かった才能がある。だからこそ、苦手なものをつくるな。その苦手から逃げてしまったら、しょうもない人間で終わるで。できない人の気持ちがわかるようになるためにも、絶対に逃げるなよ」

 指導者が選手に伝えるうえで、表現の選択は極めて重要だ。「逃げるな」という言葉に、鳥越コーチはどんな意味を込めたのだろうか。

「内川が両リーグで首位打者を獲ったあとの話です。プライドもありますし、そういう人ってカッコ悪い姿を見せたくないじゃないですか。30歳を超えてからの新しいチャレンジだから、逃げようと思えば逃げられるんですよ。別にそのままレフトを守ればいい」

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