今年の虎の4番はここが違う! 名コーチ・伊勢孝夫が語る「大人になったサトテルの打撃」の全貌
阪神のサトテルこと佐藤輝明が好調だ。5月20日現在、打率.284をマークし、11本塁打、33打点はともにリーグトップ。セ・リーグ首位を快走する阪神の4番として、十二分の活躍を見せている。
そしてファンにとって注目は、サトテルが初めてタイトルを獲れるかどうかだろう。はたして、今年のサトテルは本物なのか。これまで数々のスラッガーを育ててきた名コーチ・伊勢孝夫氏に分析してもらった。
現在、セ・リーグトップの11本塁打を放っている阪神・佐藤輝明 photo by Koike Yoshihiroこの記事に関連する写真を見る
【大人になったサトテル】
今季、「サトテルはひと皮剥けたな」と感じさせた一発があった。5月1日にバンテリンドームで行なわれた中日戦の5回表の打席だ。相手投手は左腕の三浦瑞樹。2ボール1ストライクからの4球目、3球続けてスライダーがきたあとの外角低めのストレートを、レフトスタンドに叩き込んだ。
球速は142キロ。サトテルならふつうに仕留めてもおかしくない球だった。だが、それでも無理に引っ張ることなく、広いバンテリンドームのレフトスタンドへと運んだその打撃には、「大人になったサトテル」を感じずにはいられなかった。力任せではなく、来た球をしっかりと叩くだけ──そんなシンプルかつ成熟した意識が伝わってくる打席だった。
このような打球が生まれる背景には、技術的な進化がある。具体的には、前足の出し方だ。左打者にとっての前足、つまり右足が非常に柔らかく出ている。開幕当初はそうではなかったが、この1カ月ほどで今の形になってきた。
そもそも柔らかいステップができると、バッティングにどのような好影響をもたらすのか。最大のポイントは、体重移動がスムーズになることだ。
以前のサトテルは構えてから足を上げ、ズドンと踏み下ろすようにして体重移動していた。その状態でスイングすると、ボールを叩きつけるような感じになり、当たれば飛んでいくが確実性に乏しかった。
それが今は軸足である左足に体重を残しつつ、柔らかいステップでスムーズに体重移動ができている。その結果、ストレートはもちろん、変化球にも対応できるようになっている。いわゆる「バットの出がいい」状態なのだ。
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著者プロフィール
木村公一 (きむらこういち)
獨協大学卒業後、フリーのスポーツライターに。以後、新聞、雑誌に野球企画を中心に寄稿する一方、漫画原作などもてがける。韓国、台湾などのプロ野球もフォローし、WBCなどの国際大会ではスポーツ専門チャンネルでコメンテーターも務める。