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松原聖弥を変えた明星大学での4年間 高校時代は補欠だった男は真摯に野球に向き合いプロ野球選手になった (2ページ目)

  • 菊地高弘●文 text by Kikuchi Takahiro

【開幕戦でまさかの4番・DH】

 そんな浜井は、リーグ開幕戦で思いきった手を打つ。1年生の松原を「4番・DH」で起用したのだ。

「4番バッターが決まっていなかったし、まだチーム力がないから誰を使っても同じようなもの。それなら松原に経験を積ませてやろう」

 一方、松原は戸惑いを隠せずにいた。

「なんで高校時代に補欠だったヤツが、3学年上の人もいるなかで4番なんだ......と思ってしまいました。しかも初出場ですから。4番なんて、小学生以来でした」

 期待を込めた抜擢だったが、起用は裏目に出る。松原は4打席連続三振という最悪の大学デビューを果たした。

 試合後の夜、浜井のもとに電話がかかってきた。相手は仙台育英の佐々木である。

「浜井さん、こんなことしてもらったら困ります!」

 松原の4番起用と4三振の結果を知り、いてもたってもいられなくなったのだ。高校時代にベンチ外だった選手にもかかわらず、佐々木は松原の動静を気にかけていた。当時の心境を佐々木はこう語る。

「いきなり使ってもらってありがたいんですけど、喜びとともに『4番じゃないでしょう』という思いがあって。大学1年生ですぐ出る選手もなかなかいないし、8、9番ならわかるんですけどね。情報を聞いて申し訳なくて、浜井さんに電話したんです」

 23時頃には、松原本人が青ざめた表情で浜井のもとを訪ねてきた。

「明日の試合は勘弁してください。頭が真っ白で、夜も眠れません」

 だが、すっかり自信を喪失した松原に対して、浜井はこう告げる。

「明日も6番・DHで使うぞ!」

 浜井の強い決意を聞き、松原は「切り替えるしかない」と気持ちを入れ直した。

 翌日、先発起用された松原は二塁打を3本放つ大活躍を見せる。試合後、浜井は松原に「おまえはやればできるんだ」と励まし、意外なことを告げた。

「俺は来年の春までおまえを使わない」

 あべこべの言動に見えるかもしれないが、浜井には明確な狙いがあった。

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