「常に崖っぷちに立たされている感覚」のなかで、斎藤佑樹のモチベーションを上げた一冊の本との出会い (3ページ目)

  • 石田雄太●文 text by Ishida Yuta

 8月に入ってもファームにいるとなると、いつも焦る気持ちはありました。ましてプロ11年目ともなれば、一回一回の登板がすごく大事になってきます。もうこんな時期か、ここから抑えていかないと一軍に上がっても何試合かしか投げられないぞ、と考えたら、当然、焦りは出てきますし、常に崖っぷちに立たされている感覚はありました。

【マウンドでは右脳を大事にしたい】

 そんな時、面白い本に出会いました。僕、本はけっこう読み慣れていて、かなりのスピードで読めるんですけど、僕がおもしろいと思う本は、自分が実践していて、それを言葉にしてくれている本だったりするんです。それが、アドラー心理学を解説した『嫌われる勇気』(岸見一郎、古賀史健)でした。

 要は、他人のことは気にするな、自分のやるべきことだけに集中すればいい、他人が何をしようとも自分がやることは変えられないから......という内容なんですが、それは当時の僕にとって共感できる内容でした。

 そういう考え方が野球に生かせることもあって、これ、逆説的なんですが、今までは自分さえちゃんとしていれば、自分さえよければ、野球って結果が出るものだと思っていたんです。相手を見てもしょうがない、自分のピッチングさえできれば、それ以上はできないし、それ以下もない......そう思っていました。

 でも、相手を見ることって大事なんじゃないかなと思ったんです。野球は相手があってこそのスポーツです。だったら自分の持っているカードをただ披露すればいいというわけじゃなくて、それを相手の弱点に落とし込まなきゃいけない。それを落とし込むことが野球のおもしろさだと思うようになりました。

 アドラー心理学の話になぞらえて言うと、結局、相手のことが見える、というのは僕の感覚だけの話であって、それが本当にそうなのかは第三者には判断できることではないはずです。結果が出ていれば、相手が見えていたからだと自分でも言いやすいし、周りからもそうやって言ってもらえる。

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