「常に崖っぷちに立たされている感覚」のなかで、斎藤佑樹のモチベーションを上げた一冊の本との出会い (2ページ目)
ただ、明らかにフォーシームのスピードが遅くなっていて、変化球に頼らざるを得ない状態でした。だから、そういうなかで僕が持っている手持ちのカードをフルに使うことで、思い描くバッターとの対峙の仕方を模索しなければならなかったんです。もしあの時、その3年くらい前に投げていたあと5キロ速いフォーシームがあれば、もっと幅が広げられたのに......と悔いが残っています。
【8月になってもファームにいる焦り】
6月に33歳になっても、身体の筋量は何年もほぼ変わっていなかったんです。だから身体のなかにあるものは何も変わっていなかったはずなんですが、肩やヒジが痛かったことで、最後の押し込まなきゃいけないところでボールを押し込めなくなっていました。
最後、押し込むときって、関節にその力が全部かかってくる感覚があって、それがその3年前まではあったんです。ちゃんと全部がガチッとはまって、ボールを押し込める。それがあの時は、どこかを抜かないと痛いか、痛くなるかもしれないという不安が常にあって、押し込めなかった。
実際、ヒジよりも右肩に痛みはありましたし、その怖さがフォーシームを納得できない質に落としてしまったのかもしれません。もっと強いフォーシームがあったらラクに投げられることは間違いないと思っていましたが、あの時の僕にはそれを求めるだけの時間がないこともわかっていました。だから手持ちのカードを目いっぱい使ってやるしかないと腹を括っていたんです。
夏になった頃に撮ったMRIで、靱帯は80パーセントつながっていると診断されました。そこまで再生してくれれば、十分、投げられるはずでした。ヒジを酷使しながら、靱帯が切れかかっても投げているプロのピッチャーはいくらでもいますからね。
33歳になって、年齢イコール野球歴と考えるなら、確実に身体の痛みとか、たくさん投げてきたことによる弊害はいくらでも出てきていたと思います。でも、走ったり、トレーニングをしていて衰えを感じたことはありませんでした。だから一軍で投げるチャンスをつかめないまま、夏が終わろうという頃には焦る気持ちが出てきましたね。
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