打ってもすごかった江川卓 あと3安打で「最多勝&首位打者」の前人未到の偉業が達成されていた (3ページ目)

  • 松永多佳倫●文 text by Matsunaga Takarin

 とくに天王山となった早稲田大との3試合はすべて完投という、大学野球ではめったにない起用で、江川にとっても生まれて初めてのことだった。

 初戦は完投するも、守備の乱れもあり自責点0ながら3失点で負け投手となった。

 第2戦はかわす投球に徹し、投球数111球のうち46球がカーブだった。江川の特大ホームランもあって9対0で圧倒。6回の時点で9点差をつけていたため、監督の五明公男は江川に「代わるか?」と聞くと、「いえ、投げます」と即答した。ホームランも打って気持ち的にも乗っていたこともあっただろうが、「優勝するんだ」という気迫が江川にはみなぎっていた。

 第3戦は前日の投球から一転、ストレート中心のピッチングを見せて、5対1で勝利。結局、3日間で計26イニング、344球をひとりで投げ抜き、宿敵・早稲田に勝利。まさに大エースの貫禄を見せつけた。

 早稲田には、1年生の岡田彰布(現・阪神監督)が主力として名を連ねていた。第1戦は3打数3安打、第2戦は4打数1安打2三振、そして第3戦は3打数無安打2三振。

 最初の対戦では、岡田がどのくらいの実力なのか、明らかに様子見で投げている。しかし、絶対に落とせない第3戦では完璧に封じてみせた。

 以前、岡田は大学での江川との対戦について、次のように語っている。

「最初7番で3の3かな、打ったんです。それで5番に上がったら、全然ボールが違うんです」

【二刀流の活躍で連覇に貢献】

 この早稲田との対戦で、ピッチングもさることながら強烈な印象を残したのが、江川のバッティングである。江川は自身のYouTubeチャンネルで「バッティングはよかったですから」と何度も強調して話しているように、この大学3年秋のリーグ戦では、バッティングでも勝利に多大なる貢献をした。

 10試合で38打数13安打、10打点、2本塁打。打率.342は打撃ベストテン2位で、首位打者が.409なので、あと3本ヒットを打っていれば首位打者だった。まさに"二刀流"の大活躍である。

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