打ってもすごかった江川卓 あと3安打で「最多勝&首位打者」の前人未到の偉業が達成されていた (2ページ目)

  • 松永多佳倫●文 text by Matsunaga Takarin

 4連投の離れ業ができたのは、リーグ戦開幕前の4月上旬に500球の投げ込みを3日連続やったことが大きかった。肩は消耗品といえども、スタミナは投げ込まないとつかない。江川はケガをしない体づくりと同時に、連投に耐えうるスタミナとスタイルを身につけていたのだ。

 さらに投手陣でベンチ入りした4年生はふたりのみ。それもあって、マイペースで調整できたことも江川にとっては大きかった。

 そしてなにより、江川にとってうれしい出来事があった。

 3月末に行なわれた二部から一部への転部試験に合格し、晴れて一部学生となったのだ。もともと慶應義塾大を狙って猛勉強していたのが、経済学部、法学部、商学部とすべて落ちてしまったため、試験が残っていた法政大二部の法学部を受験し、合格した経緯がある。

 天下の江川が二部学生では示しがつかない。前年も転部試験を受けたが落ちてしまい、父の二美夫から「男ならもう一度勝負してみろ」と発破をかけられ、江川はラストチャンスに賭けた。

 合宿所に入っている一部学生の選手たちと一緒に授業を受けたい思いもあり、最後の転部試験に受かるために江川は必死になって勉強した。試験科目は英語の一教科だけ。それでも二部に入学してから一部に編入しようとする学生が多くいるのか、競争率は100倍以上。一般入試よりも困難とされる転部試験の壁の高さを、江川は身にしみて感じている。

 それでも江川は「もともと僕は外国語が好きなんです。高校時代から英語だけは80点以下を取ったことがないんじゃないかな」と豪語するだけあって、見事合格を勝ちとった。

 心身ともに充実の一途をたどった江川は、難攻不落のピッチャーへと形づくられていくのだった。

【岡田彰布を子ども扱い】

 夏の間は下半身強化のためのランニングを重点的に行ない、来る秋季リーグ戦に備えた。

 各大学が「打倒・江川」に闘志を燃やしたが、春と同様に全チームから勝ち点を上げる完全優勝を果たし、連覇を達成した。

 江川は10試合に登板(85回1/3)し8勝2敗、防御率0.74、奪三振76と文句のつけようのない内容だった。

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