福本豊は「ホームランを打ったら罰金」だった? 世界一の盗塁を可能にしたある能力も松永浩美が語った (3ページ目)

  • 浜田哲男●取材・文 text by Hamada Tetsuo

――あれだけの盗塁をマークできたのは、走力だけではない別の能力も高かったからでしょうか。

松永 空気を察する能力に長けていましたね。「ここは牽制がくるな」「もう牽制はこないな」といった、状況を読む力がすごかった。足が速い選手は多いですが、それだけで盗塁ができるわけではありません。「足は速いけど、もったいないね」で終わってしまう選手も多い。それが福本さんは、足が速い上に技術もあって、空気を察する力もあった。そうでなければ、あれだけ盗塁は決められませんよ。

 それと、福本さんは「左ピッチャーのほうが走るのがラクや」とも言っていましたね。

―― 一般的には、一塁ランナーの状況を見やすい左ピッチャーのほうが、盗塁するのは難しいとされています。どんな理由があったんですか?

松永 「右ピッチャーはごまかしがきく牽制をするけど、左ピッチャーはごまかせない」と話していました。右ピッチャーの牽制は「ややこしいのがある」けど、左ピッチャーの牽制はシンプルで、「左ピッチャーが1球でも牽制をしてくると、(以降は牽制がくるかこないか)すぐわかる」と。

 あと、福本さんのアドバイスで思い出したのが、「電車に乗った時は座るな。座らずに窓側に立って外を見とけ」ということです。走っている電車からは、遠くにある看板の文字は見えますが、近くにある看板のものは見にくい。なので、近くにある看板が目の前を通り過ぎる時に、「目だけを左、右、左、右と動かして見ろ。動体視力を鍛えるんや」とのことでした。

 最初は「えっ?」と驚きましたけど、福本さんのアドバイス通りにやっていたら、最終的には新幹線の中から近くの看板の文字が見えるようになりました。日常生活でも野球の練習をする材料はいっぱいある、ということが言いたかったんでしょうね。

【「教えない」コーチの先駆け】

――バッティングに関するアドバイスをもらったこともありましたか?

松永 とにかくイメージを作るのが大事だ、ということですね。スイングのイメージを持って、そのイメージのまま振る。ピッチャーが投げてくるボールの軌道をイメージすることもそう。だから、自分がイメージしているスイングと実際の体の使い方が一致しているかどうかを確かめるため、鏡の前でよく素振りをしていましたよ。

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