福本豊は「ホームランを打ったら罰金」だった? 世界一の盗塁を可能にしたある能力も松永浩美が語った
松永浩美が語る福本豊 中編
(前編:「世界の盗塁王」のバッグを見て驚愕「スパイク、こんなに持ってるんですか?」>>)
かつて阪急ブレーブス(現オリックス・バファローズ)などで活躍した松永浩美氏に聞く福本豊氏とのエピソード。その中編では、福本氏のバッティングや走塁のすごさ、福本氏から受けた数々のアドバイスについて聞いた。
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【「ホームランを打ったら罰金」と言われていた理由】
――福本さんはプロ野球歴代1位の通算1065盗塁のほか、同5位の通算2543安打をマークするなど打撃でも素晴らしい成績を残しています。そのバッティングをどう見ていましたか?
松永浩美(以下:松永) まず選球眼がよかったですね。それでヒットも打って、足も速くて......これ以上ない理想的なトップバッターだと思います。
――169cmと小柄でしたが、通算本塁打は208本。パンチ力もあったんでしょうか。
松永 パンチ力もあるほうだと思いますが、1kg超の重たいバットを使っていた影響もあると思います。構えた時にヘッドがピッチャー寄りに入って、今で言うと阪神の近本光司みたいな感じ。スイングは(バットを地面と平行に出す)レベルスイングでした。ただ、上田利治監督からは「ホームランを打ったら罰金な!」とよく言われていましたよ。
――なぜ、そう言われていたのですか?
松永 ピッチャーにとって、ホームランを打たれるのは確かに痛いのですが、打たれた後に気持ちを切り替えやすい側面もあります。その点、福本さんには塁に出て盗塁してもらって、進塁打で三塁へ行き、犠牲フライなどでホームに還ってきてもらうのが相手に一番ダメージを与えられる。ヒットは打たれてないのに点を取られたら、ピッチャーは精神的にしんどい。だから上田監督は、ホームランではなく塁に出ることを福本さんに求めていたんでしょう。
――福本さんとバッティングの話をしたことはありますか?
松永 あまりないのですが、福本さんは「話を聞いてうまくなるんやったら、誰だってうまくなるわな」とよく言っていました。それと、「俺もプロに入った時は、野球がヘタやったからな。自分で一生懸命やるしかないんや」とも。
ただ、ほかの選手のバッティングはよく観察していましたね。私がよく言われたのは、「マツよりもバッティングの技術が劣る選手でも、その選手が調子がいい週ってあるやんか。よく打っている時はいいタイミングで打っているから、タイミングの取り方をよく見るべきや」ということ。逆に、「たとえいいバッターでも、調子が悪い週のバッティングは参考にしたらあかん。参考にしようものなら、それが自分にも影響するから」とも言っていました。
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著者プロフィール
浜田哲男 (はまだ・てつお)
千葉県出身。専修大学を卒業後、広告業界でのマーケティングプランナー・ライター業を経て独立。『ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)』の取材をはじめ、複数のスポーツ・エンタメ系メディアで企画・編集・執筆に携わる。『Sportiva(スポルティーバ)』で「野球人生を変えた名将の言動」を連載中。『カレーの世界史』(SBビジュアル新書)など幅広いジャンルでの編集協力も多数。