1年前は青学大のレギュラー争い 一夜にして全国区となった西川史礁が描くシンデレラストーリー

  • 菊地高弘●文 text by Kikuchi Takahiro

 京セラドーム大阪の場内にガンズ・アンド・ローゼズの『ウェルカム・トゥ・ザ・ジャングル』が鳴り響く。1980年代のハードロックに、「大学生にしては渋い選曲だな」と思わずにはいられなかった。

 右打席に入ったのは、身長182センチ、体重87キロとたくましい肉体を誇る20歳の西川史礁(みしょう)。青山学院大の新4年生ながら、侍ジャパントップチームに飛び級で呼ばれたスラッガーである。

西川史礁の活躍に侍ジャパン・井端弘和監督も「並の大学生じゃない」と絶賛した photo by Kyodo News西川史礁の活躍に侍ジャパン・井端弘和監督も「並の大学生じゃない」と絶賛した photo by Kyodo Newsこの記事に関連する写真を見る だが西川によると、登場曲は自身のリクエストではなかったという。それどころか、西川は「BGM自体、まったく聞こえていませんでした」と苦笑交じりに明かす。西川はこの日の試合について、こんな表現も用いている。

「夢か現実かわからないくらいの舞台に立たせていただきました」

【2安打&好捕の大活躍】

 それでも、西川の集中力は研ぎ澄まされていた。4対0とリードして迎えた、6回裏二死一、二塁のチャンス。自分がやるべきことをはっきりと認識していた。

「どんなピッチャーに代わっても、初球からスイングをするということが自分の持ち味であり、毎打席考えていることなので。あまり考えすぎず、シンプルに初球から振っていこうと考えていました」

 西川が打席に入る直前、投手がフランクリン・ファンフルプに代わっていた。右サイドハンドから腕を振る変則フォーム。右打者からすると、思わず腰が引けてしまうような嫌なタイプだろう。

 それでも西川は初球のスライダーに反応し、前寄りのポイントでとらえる。打球はきれいに三塁線を抜けていき、二塁走者の坂倉将吾がホームに還ってきた。

 西川は「金子誠コーチからデータをいただけた」とこともなげに語ったが、考えれば考えるほどすごみを感じる一打だった。プロの打席にも立ったことがない大学生が、初見の外国人変則右腕の初球から変化球を振りにいけたこと自体が驚異に思えた。

 3月6日、京セラドーム大阪で開催された侍ジャパン対欧州代表の強化試合。試合前には今回の目玉だった宗山塁(明治大4年)の右肩甲骨骨折が判明するという、ショックなニュースも流れた。

 だが、この日は大学生野手としてもうひとり招集された西川が、まばゆい輝きを放ってみせた。

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