史上最高のサブマリン・山田久志の剛腕伝説 松永浩美が「悪魔みたいだった」と振り返った場面とは? (2ページ目)
真っ直ぐに対する自信もさることながら、あの状況で冷静に、ボール1個分ずつコースを上げていったことがすごい。山田さんの真骨頂というか、300勝近く白星を重ねたピッチャーのすごさを理解できた瞬間でした。
――少しでもコントロールを間違えたら危なかった?
松永 そうですね。ただ、打球が私のところに飛んでくるイメージはありませんでした。衣笠さんは"マン振り"していましたし、山田さんもギアを上げて投げていましたから。「三振かホームランしかないんだろうな」みたいな雰囲気でしたね。
【雨天中止の試合で見せたすごみ】
――ほかに、山田さんのすごさを感じたエピソードはありますか?
松永 山田さんが先発予定の試合が、雨で流れた時があって。普通は試合が流れたら少し気が抜けるものなんですけど、山田さんはブルペンに行ってすさまじいピッチングをし始めたんです。「雨で中止なのにこんなピッチングするの?」というぐらい、すごい球を投げていました。
真っ直ぐでも変化球でも、キャッチャーがアウトコースに構えようがインコースに構えようが、とにかくミットが動かない。試合で見せるピッチングよりも気迫を感じました。私を含めて、近くで見ていた人間は誰も近寄れず、声をかけられる雰囲気ではありませんでした。
それでピッチングを終えて、アンダーシャツをパッと脱いだ時、背中から湯気がぶわーって出てきて......。例えるのが難しいのですが、「悪魔みたいな感じだな」と思いましたよ。
――17年連続二桁勝利という記録も残していますが、体も強かった?
松永 山田さんの体調が悪い、ケガをしているのも見たことがありません。私はサードを守っていたので、マウンドにいるピッチャーの調子の良し悪しも伝わってくるものなんです。人間であれば、風邪気味だったり熱っぽかったり、体がダルかったりすることもあるじゃないですか。でも、山田さんはそういう時が一度もなかった。実際はどうだったのかはわかりませんが、周りにそれ見せないんです。
精神面のムラも少なかったです。機嫌がいい時、悪い時などがあまりなく、常に一定でしたね。今思えばすごいことですよ。
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