2017年夏の甲子園準優勝 広陵を支えた背番号18の主将が中村奨成に送るメッセージ「プロ野球が終わった時に周りに誰もいなくなるぞ」

  • 元永知宏●文 text by Motonaga Tomohiro

 野球界では、秋は別れの季節だ。春から続く長いシーズンが終わり、さまざまな選手がユニフォームを脱ぐことになる。引退セレモニーで盛大に送り出されるスターもいれば、ひっそりとロッカーから荷物を運び出す選手もいる。

2017年夏の甲子園で準優勝を飾った広陵の岩本淳太主将(写真右)と中村奨成 photo by Sankei Visual2017年夏の甲子園で準優勝を飾った広陵の岩本淳太主将(写真右)と中村奨成 photo by Sankei Visualこの記事に関連する写真を見る

【チームをまとめ夏の甲子園準優勝】

 2017年夏の甲子園で準優勝した広陵(広島)でキャプテンをつとめた岩本淳太から筆者に電話がかかってきたのは、高校野球の東京都秋季大会準決勝の最中だった。

「このたびユニフォームを脱ぐことになりました。最後に練習試合に登板させてもらうことになったので、お知らせしようと思いまして......」

 あの夏の甲子園は、ひとりの怪物の登場に沸き立っていた。

 広陵の主砲・中村奨成(現・広島)が、PL学園(大阪)の4番打者だった清原和博選手(元西武など)によってつくられた1大会最多本塁打記録を超える6本塁打を放ったからだ。

 捕手で3番に座る中村が強打と強気なリード、強肩でチームを率い、広陵は中京大中京(愛知)、秀岳館(熊本)、仙台育英(宮城)、天理(奈良)など強豪を次々と撃破し、決勝まで駒を進めた。決勝戦では花咲徳栄(埼玉)に敗れたものの、その夏の主役は中村と広陵の選手たちだったと言っていい。チームをまとめたのは岩本淳太、背番号18のキャプテンだった。

 高校入学直後に144キロのストレートを投げ込みチームメイトを驚かせた剛腕は、二度も右ヒジ手術をするなど、満足なプレーができなかった。甲子園でも出番なし。だがイニングの合間や試合の前後、選手たちのすぐ近くには岩本の姿があった。チャンスで凡打した選手や降板したピッチャーに声をかけるのも大事な仕事。決勝戦で敗れ涙を流す中村を慰めたのも岩本だった。

 レギュラー選手を支えるキャプテンの存在がなければ、広陵が決勝まで勝ち上がることはできなかっただろう。

【チームへの献身が認められて大学進学】

 そんな彼のことを認めてくれた人がいた。広陵の中井哲之監督が言う。

「上武大学の谷口英規監督に『ぜひほしい』と言っていただきました。甲子園での実績もないし、ヒジの手術もしたのに。淳太の生き方を見て、広陵のキャプテンだということでとっていただきました。淳太には『おまえ、プロになれよ。お母ちゃんにラクをさせてやれ』と言いました。そんなこと生徒に言ったのは初めてです。淳太はそれだけの力を持っていますから」

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