ヤクルト星知弥が「うまくいっていない感じ」から150キロ台連発で驚異の奪三振率 清水昇が語った変化
3月9日、昼下がりのヤクルト二軍の戸田球場では、星知弥と小野寺力投手コーチが一塁ファウルライン上に立ってキャッチボールをしていた。プロ野球はオープン戦に突入していて、この日の夜にはWBC日本代表チームの初戦(中国戦)が控えていた。
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【ケガとメンタルの弱さに泣いた6年】
このキャッチボールの狙いは、まずストライクをとるための横のブレをなくすことだ。ライン上という限られた幅のなかで、インコース、アウトコースへ手だけで投げるのではなく、縦のラインを体に意識づけさせて投げる。さらに、体を小さく強く使うことでパワーも生み出す。「この練習はもう何年もやっています」と小野寺コーチは言う。
「はい、苦手の1球目の入りから」
「ほら、また手だけで投げてる」
「腰が入っていないよ」
キャッチボール中は、小野寺コーチからの注文が飛ぶ。ふたりのコーチと選手としての関係は、星が入団した2017年から続いている。
「わかってます」と、星がもどかしそうに答えると、「ならできるな(笑)」と小野寺コーチ。そして気持ちのいい真っすぐがミットに収まると、「この球だよ! それを続けていこう」と小野寺コーチの声が響く。
星が今シーズンのスワローズブルペン陣のピースになるとは、まったく想像もつかなかった。それほど3月上旬の時点では、試行錯誤しているように見えたからだ。
小野寺コーチは「2月の二軍キャンプの段階では、真っすぐに関してはすでによかったです」と教えてくれた。
「あとは変化球の腕の振りが緩むとか、制球力といったところをどうにかしていこうという話はしました。今年の星を見て、危機感を持っていることを感じました」
星のこれまでのキャリアは、1年目は24試合(先発18試合)に登板して4勝7敗2ホールドを記録。即戦力右腕として期待に応えたが、シーズン終盤に右ヒジを疲労骨折。その後もさまざまなケガに泣かされたこともあり、昨年はわずか7試合の登板に終わった。
「持っているポテンシャルは高いのですが、とにかく自信がなさそうなんです。不安でストライクをとりにいって打たれる」
小野寺コーチは、そこが一番の課題だと思っていた。
「もっと自信を持って投げよう、ゾーンに腕を振って投げようと。あとは確率ですね。いい1球がきても、次は『ええっ?』というボールになる。とにかく不安があるのか、1球目を様子見で入ってしまって打たれる。僕にはそう見えていました」
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著者プロフィール
島村誠也 (しまむら・せいや)
1967年生まれ。21歳の時に『週刊プレイボーイ』編集部のフリーライター見習いに。1991年に映画『フィールド・オブ・ドリームス』の舞台となった野球場を取材。原作者W・P・キンセラ氏(故人)の言葉「野球場のホームプレートに立ってファウルラインを永遠に延長していくと、世界のほとんどが入ってしまう。そんな神話的レベルの虚構の世界を見せてくれるのが野球なんだ」は宝物となった。以降、2000年代前半まで、メジャーのスプリングトレーニング、公式戦、オールスター、ワールドシリーズを現地取材。現在は『web Sportiva』でヤクルトを中心に取材を続けている。