辻発彦が語る至高の走塁術「足が速いだけじゃダメ」「走らないのも武器の意味と現役ナンバーワン選手は?」
辻発彦が語る「走・攻・守」〜走塁編
現役時代は西武黄金期の不動のレギュラーとして、走攻守でチームの勝利に貢献した辻発彦氏。引退後もコーチ、監督として長く現場に携わった。そんな辻氏にプロの「走攻守」について話を聞いた。まずは走塁について、持論を語ってもらった。
【盗塁はスタートの思いきりがすべて】
── 西武の歴代盗塁数は、1位が松井稼頭央さんの307個(盗塁王3回)。以下、片岡治大さん271個(盗塁王4回)、石毛宏典さん242個(盗塁王なし)、秋山幸二さん227個(盗塁王1回)、金子侑司選手221個(盗塁王2回)、そして辻さんの220個(盗塁王なし)です。盗塁はスタート、スピード、スライディングの「3S」が大事だと言われます。
辻 それぞれ大事ですが、私はスタートの思いきりが一番ではないかと思います。
── 辻さんの現役時代、パ・リーグでは西村徳文さん(ロッテ/盗塁王4回)、大石大二郎さん(近鉄/盗塁王4回)たちがタイトル争いを演じていました。
辻 私は自分の立場として、「塁に出たら走る」という感じではなく、タイトル獲得には至りませんでした。ただ、走ると見せかけて投手にプレッシャーをかけたり、リードを大きくとって一、二塁間のヒットゾーンを広げたり、そういうところを意識してやっていました。うしろには長打が期待できる強力クリーンアップ(秋山幸二、清原和博、デストラーデ)がいましたから。無理して盗塁を企ててアウトになるよりも、いかに相手バッテリーにプレッシャーをかけるか。だから盗塁でアウトになったのは、フルカウントから走って、打者が空振りした時くらいでしたね。
── 86年の広島との日本シリーズでは、北別府学さん、達川光男さんのバッテリーから、二盗、三盗を立て続けに決めました。北別府投手は牽制がうまかったですし、達川捕手も走塁阻止率は高かった。
辻 広島バッテリーの牽制にはパターン的なところがあって、スコアラーからの報告でデータとしてインプット済みでした。今のように一人ひとりがタブレットを持って、相手のデータを見られる時代ではなかったですからね。ただ実際にグラウンドで観察していれば、「牽制はないな」とか「牽制がくるな」というのはわかりました。牽制時にクセが出る投手もいますが、次の試合では必ず修正してきます。そうでないとプロの世界では勝てませんから。牽制で一番わかりやすいのは「こういうリズムで投げてきますよ」というパターンが出ることなんです。それをつかむことです。
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