敵チームの落合博満と松永浩美が秋田の屋台で語り合い。「どこが苦手?」の質問から一流の打撃論が始まった (2ページ目)

  • 浜田哲男●取材・文 text by Hamada Tetsuo
  • Photo by Sankei Visual

【共通の苦手コースは「ど真ん中」】

――秋田の屋台とは珍しいですが、どんな経緯があったんですか?

松永 阪急とロッテの試合が秋田である日に、落合さんと羽田空港でばったり会ったんです。その時に、落合さんから「今夜、一緒に飯でも食わない? 俺が行ってる秋田の屋台が、お前らの泊まってるホテルの近くなんだ」と誘われて。「そうなんですか、場所もわかりやすいですね」となって、食事の約束をしたんです。それで試合後に屋台に足を運び、落合さんとマンツーマンで一時間半くらい話をしました。

――その時は、やはり野球の話をしたんですか?

松永 最初は軽く料理をつまみながら、当たり障りのない話をしていたのですが、唐突に「どこが苦手?」と聞かれて。そこからは野球の話になりましたね。

――「苦手」とは、バッティングのコースのことですか?

松永 そうです。敵チームの選手でしたし、そうでなくても苦手なコースなんて他人には言わないんですが、落合さんの引き出し方がうまかったんでしょう。「たぶん俺と同じじゃない?」と聞いてきたので、私が「ど真ん中が一番苦手で......」と答えたら「俺もそうなんだよ」と。

――ど真ん中が打ちにくい?

松永 ど真ん中のボールは引っ張ることもできるし、流すこともできる。そもそも、真ん中にボールが来ることなんてあまり想定していないですから。プロのピッチャーが攻めてくるのは、インコースやアウトコースの厳しいところや、高め、低めの厳しいところ。だからこそ真ん中にボールが来た時は、躊躇してしまうんです。

 当時、チームで1番を打っていた私が初球のど真ん中のボールを見逃すと、ネット裏のお客さんから「真ん中なんだから振らんかい!」とヤジられたものです。でも、真ん中のボールを待っていたら、たぶんシーズンで打率2割くらいの成績しか残せなかったでしょうね。

 落合さんと話をして、「そこは同じなんだな」と思いました。もちろん、それを聞いたからといって、あとで阪急のチームメイトに「落合さんは真ん中が苦手だよ」などと教えたことはないですよ。

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