「ポスト吉田正尚」の最有力、オリックス来田涼斗が目指す「糸井嘉男のフィジカルと吉田正尚の打撃力」 (5ページ目)

  • 菊地高弘●文 text by Kikuchi Takahiro
  • photo by Koike Yoshihiro

 天下分け目の楽天戦に出場した来田だが、田中将大の前に三邪飛に倒れ、2打席目はチャンスの場面で山足達也がピンチバンターで登場したため交代。「使ってもらったうれしさより、1打席で替えられた悔しさのほうが大きい」と本人は振り返る。

 来田は「言い訳にしたくない」と語ったが、やはり脳震盪の影響は大きかったのだろう。理屈ではなく体の反応で打つ打者だけに、微妙な感覚の狂いを取り戻すために長い時間を要してしまった。

 そして、迎える新シーズン。皮肉にも大きな目標だった吉田がいなくなることで、来田に大きなチャンスが訪れようとしている。

── 来田選手にとって2023年は大きなチャンスのシーズンになります。

来田 吉田選手がメジャーに行くとチャンスも増えると思うので、1打席でも多く結果を残してレギュラーを勝ちとりたいです。

── 今オフも吉田選手と合同自主トレをするそうですね?

来田 はい、3週間くらい一緒にやらせてもらいます。

── 「吉田選手からここを盗みたい」と考えている部分は?

来田 どうやったら打ちミスをなくせるか、聞きたいですね。

── 芯でとらえる精度は明らかに高まっていますが、さらに一軍で活躍できるレベルへということですね?

来田 はい。フォームもかなり固まってきているので、このままやっていきたいです。

 インタビューの最後に、来田に聞いてみた。来田が目指す野球選手としての完成形はどんなイメージなのか、と。すると、来田は淀みなくこう答えた。

「糸井さん(嘉男/元阪神ほか)と吉田選手を足した感じですね」

 糸井のフィジカルと吉田の打撃力。その合成こそ、来田の描く理想の未来像なのだ。そのため、現在89キロ、体脂肪率15パーセントの肉体を、体重90キロ、体脂肪率13パーセントへと鍛え上げようと考えているという。

 来田のインタビューを終えると、名状しがたい不思議な余韻が残った。得体の知れない何かが、いま静かに動き始めている。

 吉田正尚の穴など、埋まるはずがない。だが、その穴の先では、来田涼斗という若き大物が底光りしている。

来田涼斗(きた・りょうと)/2002年10月16日、兵庫県生まれ。明石商では入学と同時にベンチ入りを果たし、1年夏から甲子園に出場。2年春のセンバツ大会準々決勝では史上初となる「先頭打者アーチ&サヨナラアーチ」を記録。2020年ドラフト3位でオリックスに入団。ルーキーイヤーの21年、高卒新人史上初となるプロ初打席・初球本塁打の離れ業をやってのけた。

【著者プロフィール】菊地高弘(きくち・たかひろ)

1982年生まれ。野球専門誌『野球小僧』『野球太郎』の編集者を経て、2015年に独立。プレーヤーの目線に立った切り口に定評があり、「菊地選手」名義で上梓した『野球部あるある』(集英社/全3巻)はシリーズ累計13万部のヒット作になった。その他の著書に『オレたちは「ガイジン部隊」なんかじゃない! 野球留学生ものがたり』(インプレス)『巨人ファンはどこへ行ったのか?』(イースト・プレス)『下剋上球児 三重県立白山高校、甲子園までのミラクル』(カンゼン)など多数。

5 / 5

関連記事

キーワード

このページのトップに戻る