「ポスト吉田正尚」の最有力、オリックス来田涼斗が目指す「糸井嘉男のフィジカルと吉田正尚の打撃力」 (2ページ目)

  • 菊地高弘●文 text by Kikuchi Takahiro
  • photo by Koike Yoshihiro

 冒頭から来田の発言に圧倒されていた。来田のことは高校1年夏から甲子園に来るたびに囲み取材をする機会があったのだが、ここまで大物感を覚えたことはなかった。

 質問に出てくる「狭間監督」とは、明石商を甲子園常連校に育て上げた名物監督である。高校2年春のセンバツ・智辯和歌山戦で先頭打者本塁打とサヨナラ本塁打を同一試合で記録するほどの甲子園のスターだった来田に対して、狭間監督はいつも辛辣だった。

「あいつはたいしたバッターじゃない」

 当然、高い期待の裏返しでもある。そして、来田を評して繰り返し言っていた言葉が「タイミングを計れない男」だった。

「ピッチャーがボールを離したところからホームまでボールが到達するのに0.43秒かかると言われています。高校生のバッターはトップからインパクトまで0.2秒弱かかる。つまり0.43から0.2を引いた0.23秒がバッターに残された時間なんですが、来田はまだその間(ま)を感じられていない。間を感じられる選手が足を高く上げるのはいいんだけど、感じられない選手が足を上げるのはどうなのか」

 まくしたてるように説明する狭間監督の圧に、話を聞きながら後ずさりしそうになった記憶がある。だが、高校球児・来田涼斗はひと回りもふた回りも年上の狭間監督の苦言を「何も思わない」と受け流していたのだ。この強靭な内面こそ、来田という野球選手の最大の武器に思えてならない。

【究極のマイペース】

 その代わり、来田の技術論を深掘りしようとしても、話は一向に広がらなかった。

── 来田選手は高校3年時に「6月くらいに新しいことを始めて、タイミングの取り方がはまってきた」と言っていました。

来田 そうですね、その時はコロナで試合もできなくて、自分と向き合っていい練習ができました。

── 具体的にはどんな感覚だったのですか?

来田 技術はそんなにすぐに変わるものではないと思うので。足の上げ方をちょっと変えてみたり、本当にちょっとしたことですね。

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