現役打撃投手、元巨人外野手、甲子園準優勝投手...トライアウトのマウンドに紆余曲折を経てたどり着いた3人の男たち (4ページ目)

  • 杉田純●文 text by Sugita Jun
  • photo by Murakami Shogo

 ファンへの思い、そして支えてくれた仲間への思い。

 5年前から仕事をしつつ、「腕も上がらない」状態から少しずつ投げるためのステップを歩み始めた。30歳を迎えた今年、12年ぶりにたどり着いたマウンドがトライアウトだった。

 樋口龍之介、片岡奨人、宮田輝星と元日本ハムの打者3人を相手に、高校時代と同じサイドスローからストレートとスライダーだけを投げ込む。トライアウトという舞台で打者が打ち気なのも味方し、一二三は2つの三振を奪ってマウンドを降りた。

 この日の最速は、130キロだった。

「ビックリしましたよ。練習で測っている時は、118とか120キロぐらいやったんすよ。アドレナリンですかね(笑)」

 そう語った一二三は、最後にこう続けた。

「やっぱり150キロ近い球を投げていたんで、悔しさはありますけど......でもまあ、一般人が十分じゃないですか。十分やと思いますよ、僕は」

 もう150キロの球は投げられない。だが一二三がこの日のマウンドに上がったのは、決して現役復帰をするためではない。

「仕事をしながら、野球チームに所属せずにここまで来られたのは、自分自身をちょっと褒めてあげたい。この5年間、お疲れやったなって」

 2022年11月8日、楽天生命パーク宮城で一二三慎太の野球人生にようやくひとつの区切りがつけられた。

*     *     *     *     *

 小石、村上、一二三の3人が歩んできた道のりはそれぞれ違う。だが、マウンドという舞台へのこだわりは捨てず、この日のトライアウトに臨んだ。ピッチャーにこだわり続けた男たちの集大成もまた、トライアウトに秘められたドラマなのだ。

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