八木裕が語る、判定が覆った「幻のサヨナラホームラン」。史上最長6時間26分を戦うも引き分けで「あの試合に勝っていれば......」 (3ページ目)

  • 高橋安幸●文 text by Takahashi Yasuyuki
  • photo by Sankei Visual

スコアボードには阪神のサヨナラ勝ちを示す「2×」が灯っていたスコアボードには阪神のサヨナラ勝ちを示す「2×」が灯っていたこの記事に関連する写真を見る 中断が長引き、スタンドから物が投げ込まれ、10人近い観客がグラウンドに乱入し、甲子園は騒然となった。阪神ベンチにフロントの人間が来て、中村監督に「没収試合という雰囲気になったらいけない。なったら負けになるので、どうしてもそれは困る」と伝えた。すると監督がベンチ裏に選手たちを集めて言った。

「没収試合で負けになるといけないから、すまんけど、もう1回、再開してくれるか?」

 37分間の中断を経て、阪神側の連盟提訴を前提に試合再開となった。二死二、三塁で残ったサヨナラのチャンスは、新庄剛志が四球で出たあと、久慈照嘉が中飛。シーズン15度目の延長戦に臨むことになった。

痛恨となった6時間26分の死闘

「切り替えられたかどうかと言ったら、難しいですよ。『サヨナラだ!』って騒いで、もう上がって、風呂に入りかけた人もいたんでね。それでまた帰ってきて、もう1回やるのはなかなか大変ですけど、しょうがない。それで再開はしたんですけど、岡林、それだけ中断したのにまだ投げて。7回から15回まで9イニング、完封されてしまいました(笑)。ありえないですよ」

 延長15回を終えて3対3。史上最長の6時間26分を戦って、規定により引き分け再試合となった。セ・リーグが90年から導入した規定だったが、阪神にとってはこの再戦がのちに響くことになる。

「結局、1勝差でヤクルトに負けて優勝を逃したので。そこで勝っていたら当然、大きいですし、最後、長い遠征になりましたんで、すごく大きなアドバンテージを持って甲子園を離れられたわけです。遠征に行く前までは、当然、優勝できると思っていて、中村監督も『大きなお土産を持って帰る』って言われましたけど、もっとラクにいけたと思います」

 中村監督の「大きなお土産」発言に関して、一軍経験の少ない若手には「プレッシャーになった」という証言もある。だが、八木にとっては普通の発言だったようだ。

「至極、当然だと思いましたね。我々もできると思っていましたし、よしよしと思って遠征に行きましたから。それがまさか、遠征に出て、13試合で3勝10敗ですか、そんなに負けるとは思ってなかったです」

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