八木裕が語る、判定が覆った「幻のサヨナラホームラン」。史上最長6時間26分を戦うも引き分けで「あの試合に勝っていれば......」 (2ページ目)
手荒い祝福を受けながらも、心の片隅ではまだ「本当に入ったんかな......」と思っていた。だが、すでにスコアボードの9回裏には阪神のサヨナラを示す「2×」が入り、スタンドは大歓声。ヒーローインタビューのお立ち台も出ていた。だがその時、打撃担当の佐々木恭介コーチがレフトのほうを見て「ちょっと、揉めてるな」と言った。
「やっぱりか......と思った記憶があります。入ったか、入ってないか、よくわからない打球だったということはすぐわかりました。それなのに『いいから早くヒーローインタビューしましょう。どうぞ、こちらに。どうぞ』って言われたのには参りました(笑)。『まだ抗議されてんのに無理や』って言うしかなく」
没収試合にはできなかった
ヤクルト側は「打球はフェンスのラバーに当たったあと、スタンドに入った」と抗議していた。審判団が協議に入った結果、平光塁審が「誤審」を認め、判定を訂正。「エンタイトル二塁打として、二死二、三塁から試合を再開する」と阪神側に伝えた。当然、阪神側は怒り、訂正は「承服できない」と、ベンチ内で審判団と折衝した。
「平光さんがずっと中村監督に説得されていました。その間、ベンチ裏でVTRを観ていると、たしかにフェンスに当たって入っていました。ただ、実際はホームランじゃないかもしれないけど、一度ジャッジしたら、そこで決まりのはずですよ。今みたいにリクエストはないので、ゲームセットじゃないですか」
リクエストが当たり前になった令和のプロ野球。見慣れた目で当時の映像を見てしまうと、いたたまれない。逆に、映像によるリプレー検証がなかった平成時代に、よく「誤審」を認めて訂正がなされた、と言えなくもない。選手たちはベンチ裏で映像を見ることができても、審判団は見ていないのだから。
「タイガースのベンチ裏は、ゲームセットになったらもう抗議は受けつけないという考えでした。中村監督としては『一度、ホームランとジャッジして、それで終わっている試合をもう1回やりましょう、みたいなことはダメだ』と」
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