プロ注目左腕に起きた悲劇。亜細亜大の指揮官が悔やむ「パフォーマンス向上の落とし穴」
プロ野球ではトミー・ジョン手術を受ける投手があとを絶たず、今年は中日の梅津晃大、阪神の髙橋遥人がメスを入れた。20代中盤のふたりは球界トップレベルのポテンシャルを秘める速球派だが、たび重なる肩・ヒジの故障に悩まされている。それだけ出力が高いことの裏返しだろう。
ヒジの上腕骨と尺骨を主につなげる内側側副靭帯が負荷に耐えられなくなってピッチングに支障をきたすと、投手たちは腱を移植する再建術を受ける。復帰には約1年を要するが、経験者の吉見一起(元中日)によると、患部が自分の感覚にフィットしてくるまでには約2年かかるという。
予防策を講じようという声がプロ野球OBや医療関係者、メディアなどから挙がる一方、効果的な対策はなかなか見つかっていない。厄介なことに、靭帯は鍛えようがないのだ。
トミー・ジョン手術経験者の話を聞くたび、肩・ヒジの故障予防をしつつ、パフォーマンスアップを目指すという"二律背反"の難しさを感じさせられる。とりわけ今年のドラフト候補に挙がる逸材がトミー・ジョン手術に至るまでの過程は、投手育成の大変さを突きつけられる話だった。
1年春からリーグ戦のマウンドに上がる亜細亜大・松本晴この記事に関連する写真を見る
阪神・髙橋遥人を超える逸材
「松本晴は髙橋遥人よりいいボールを放ります。間違いないです。だけど、ケガが多いんです」
亜細亜大学の生田勉監督は阪神に進んだ教え子を引き合いに出し、松本(4年)についてそう話した。樟南高校(鹿児島)時代から最速145キロを計測したこの左腕投手は、亜細亜大では1年春から8試合に登板。秋には5試合に投げた。
だが、2年春のリーグ戦がコロナ禍で中止になると、3年秋まで一度もマウンドに立てなかった。
松本は1年春から先発を任された一方、腰を痛めた。そして2年春には雨中のランニング中に転倒して左足首を複雑骨折する。復帰までに1年を要した。
ようやく投げられるようになった頃、トレーニングで有名な施設に2週間ほど行きたいと生田監督に希望を伝えてきた。よく相談したうえで許可すると、帰ってきた時には投球フォームに変化が見られ、球速もアップしていた。だが、生田監督は嫌な予感を抱く。ヒジに負担のかかりそうな投げ方だったからだ。
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