「投げすぎ」か「投げなさすぎか」。球数制限がすべてではなく、近年は「過保護すぎる」側面もある (3ページ目)

  • 中島大輔●文 text by Nakajima Daisuke
  • photo by Koike Yoshihiro

"投げすぎ問題"で記憶に新しいのが、今春のセンバツで準優勝した近江高校のエース・山田陽翔だ。1回戦から4試合連続完投で、準決勝の翌日に行なわれた決勝でも先発マウンドに上がった。多賀章仁監督は「彼の将来を見た時に間違いだった」と反省したが、少なくとも山田自身は降板のサインを送ってマウンドをあとにしている。最悪な事態は回避できた、と言えるのかもしれない。

 投げ込み文化が根強い日本では、"投げすぎ"問題はなかなか決着がつかないテーマだ。現役時代に2度の最多勝を獲得した一方、トミー・ジョン手術を含めて5回メスを入れた元中日の吉見一起は自身の経験を踏まえてこう語る。

「僕は輝いた年もケガをした年も両方経験できて、プロ野球を終えました。そのなかで子どもたちに伝えるのは、『やっぱり元気じゃないと野球はできない』ということ。レギュラーになる・ならない、勝つ・負ける、打つ・打たないはもちろん大事だけど、それ以前に体が元気じゃないといけない」

自分を知ることの重要性

 吉見の転機になったのは、鴻江寿治トレーナーとの出会いだった。中日のチームメイトだった井端弘和に紹介されて2009年から体のケアをしてもらい、2011年から骨盤の使い方など投げ方の指導も受け始めた。この年には18勝3敗で2度目の最多勝に輝いている。

 その裏にあったのが意識改革だ。

「以前は『寝れば投げられる』という感じで、その程度の知識しかなかったです。それが鴻江さんと出会ってから、今日投げたあとに自分の体がどういう状態かを伝えなくてはいけなくなり、体に興味を持つようになりました。鴻江さんが見た僕の体と、自分の感覚のズレもあるだろうし。それを伝える責任もあったので」

 吉見が今の高校球児に「ちょっとは無理することも必要」と思うのも、こうした点に通じている。昨年のセンバツを見に行った際、140、150、160球と投げる投手がたくさんいて、それほど球数がかさむことに疑問を抱いたという。

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