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「投げすぎ」か「投げなさすぎか」。球数制限がすべてではなく、近年は「過保護すぎる」側面もある (2ページ目)

  • 中島大輔●文 text by Nakajima Daisuke
  • photo by Koike Yoshihiro

 島村医師は子どもたちの野球ヒジに対する啓蒙活動を長らく行なってきた一方、近年の育成環境は「過保護すぎる」とも感じている。極論を言えば、多少の痛みで登板回避するのは"機会損失"になるからだ。医師として責任があるなかで、大事な試合を控えて身体に不安のある選手にアドバイスを求められた場合、このように答えるという。

「カッコよく言うと、(テレビドラマ『ドクターX』の)米倉涼子的に行きます。『やれよ』と。『最後は手術で戻すから。私は失敗しないので』と言います」

 中高生がトミー・ジョン手術に至るような事態は避けるべきだが、最悪、メスを入れて救うことはできる。故障を恐れて勝負の舞台に立たなければ、ただチャンスを逃すことにもなりかねない。

「痛い」と言える環境づくり

"投げすぎ"と"投げなさすぎ"の間で絶妙なバランスをとるには、監督やコーチが一定の医学知識を持つ必要がある。島村医師とコンビを組む高島誠トレーナーはそう指摘する。

「現場の指導者は選手の既往歴から把握し、『この子はいつか故障する可能性もある』と頭に入れておくことが大事です。そのうえで重要なのはドクター選び。適切なアドバイスをもらえれば、『中3から高校生になる前にオペをはさみましょう』とか『手術はせずにいけそう』とか、総合的な判断がしやすくなります。『しばらく様子を見よう』では、治らないケガがある。一方で『ヒジのせいで野球人生が終わってしまった......』とならないようにしないといけない」

 選手にとって不可欠なのが、周囲との適切な関係づくりだ。高島トレーナーが続ける。

「周りが『投げすぎ』と過剰に気にするのではなく、選手自身が『痛い』と言える環境をつくってあげることのほうが大事だと思います。本当にヤバイ時は無理しないという選択がとれるように。だからといって、大事なタイミングで投げられないのでは『ちょっと頼りない選手』となってしまいます」

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