「投げすぎ」か「投げなさすぎか」。球数制限がすべてではなく、近年は「過保護すぎる」側面もある
今季のプロ野球で開幕投手を務めた12人のうち、甲子園出場歴を持つのは7人。高橋光成(西武)、北山亘基(日本ハム)、藤浪晋太郎(阪神)、小川泰弘(ヤクルト)、大野雄大(中日)、東克樹(DeNA)、大瀬良大地(広島)だ。
対して山本由伸(オリックス)、千賀滉大(ソフトバンク)、菅野智之(巨人)は国際大会で「日本のエース」と言われた実力者だが、いずれも甲子園とは縁がない。
全体的に強豪私学の出身者が多いなか、小川と千賀、石川歩(ロッテ)、則本昂大(楽天)は公立高校から成り上がった。
高校時代はまったくの無名だったソフトバンク・千賀滉大この記事に関連する写真を見る 以上を踏まえると、スケールの大きな投手を育てるという意味で、甲子園は必ずしも直結しているわけではない。
ただし現実的に見ると、注目の集まる大舞台は学校の名をアピールする格好の場で、とりわけ私学には経営面への影響も大きい。少子化時代の生徒集めにおいて、広告塔となる選手の獲得競争は熾烈さを増すばかりだ。
メディアにとっても数字を稼げるコンテンツで、ドラフト候補にスポットライトを当てることはもちろん、「スーパー1年生」や「スーパー中学生」と"スター・システム"の対象になる選手は若年化している。良くも悪くも、甲子園は野球産業の中心地だ。
スカウトへのアピール
中学生の立場から見ると、全国大会を狙える高校は設備や指導者などに恵まれ、野球人生をより切り拓きやすい環境に映るだろう。憧れの地でプレーするチャンスも高まり、プロのスカウトの目に留まる機会も多い。さらに、大学進学に有利に働く側面もある。
子どもたちの野球には、大人たちの思惑も複雑に絡み合っているのだ。
岡山大学整形外科の島村安則医師は以上のような事情も頭に入れ、野球少年の診療にあたっている。
「故障しないようにすることはもちろん大事ですが、野球には別要素もあります。スカウトの目に留まらないといけない、ということです。中学や高校、大学の最終学年は勝負の時だと思うので、多少無理せざるを得ない。たとえば、高校までしかやらないという人なら、リミットまで持っていって壊れてしまってもいいという考え方もあります。対して『次がある』という人は、それに向けて違う考えでいかないといけない。そういう意味で、選手を守ればいいというだけの問題ではありません」
1 / 5