澤井良輔の人生を一変させたセンバツ・PL学園戦での一発「僕は運がよかっただけなんです」

  • 田口元義●文 text by Taguchi Genki
  • photo by Kyodo News

澤井良輔インタビュー(前編)

「大阪旅行、初日で終わりだよ」

 冗談めかして笑う者もいたが、チームの雰囲気は沈んでいた。銚子商の伝統「黒潮打線」の主軸を担う澤井良輔もまた、「やっても負けるから当たりたくなかった」と思っていた。

1995年センバツ初戦のPL学園戦でホームランを放った銚子商・澤井良輔1995年センバツ初戦のPL学園戦でホームランを放った銚子商・澤井良輔この記事に関連する写真を見る

ライバルの前で豪快な一発

 1995年のセンバツ。大会初日の第3試合に登場する銚子商の相手はPL学園だった。「高校ナンバーワン」の呼び声高いスラッガーの福留孝介をはじめ大型選手が揃い、優勝候補の筆頭に挙げられていた。

 一方の銚子商は、甲子園出場17回、優勝1回を誇る名門だが、10年ぶりの出場。澤井にとっても初めての甲子園だった。「まさか立てるとは思っていなかった」という澤井の甲子園初打席は、初回ランナーなしの場面で回ってきた。

 興奮していたが、それ以上に緊張していた。立っているだけで足がガクガク震えているのが自分でもはっきりとわかった。ストライク、ボール。一度もスイングしていない。打席では平静を装っていたが、体が硬直してバットを振れなかっただけだった。

「なに打ちたい?」

 PL学園のキャッチャー・早川朋秀が囁きかけてきた。相手は攪乱させるための作戦だったのだろうが、不思議と冷静になれた。どうせ「真っすぐ」って言っても投げてこないだろうな──だから、澤井は「スライダー」と答えた。

 3球目。そのスライダーが真ん中よりの甘いコースに来た。ストレート狙いだったが、体が自然と反応する。強振してとらえた打球は、ライトスタンド中段まで到達した。

 澤井の運命の歯車が、大きく回り出す。ナンバーワンスラッガーを脅かすライバルの出現に、大衆が色めき立った。

 3回にはPL学園の福留も澤井に負けじと、バックスクリーンに豪快な一発を放つ。両チームの主砲によるホームランの競演。スターの誕生を確信するように、甲子園が沸いた。

 試合は延長11回の末に、11対7で銚子商がPL学園を寄りきった。澤井はホームランを含む5打数2安打。この試合を境に、黒潮打線のシンボルとなった澤井は、瞬く間に全国区となった。

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