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ヤクルト野村克也監督と交わした「稲葉篤紀の打撃」論。八重樫幸雄はどう納得させたのか (3ページ目)

  • 長谷川晶一●取材・文 text by Hasegawa Shoichi
  • photo by Kyodo News

【マンツーマンで取り組んだ打撃改造】

――それで、実際に下半身主導のスイングについての指導を稲葉さんにしたんですか?

八重樫 いやいや、僕はこの時は二軍監督だったし、稲葉はずっと一軍にいたので、ほとんど接点はなかったんです。でも、一軍打撃コーチに就任した1999年の時点で、稲葉の悪い癖はそのまま残っていました。その時点から、ようやく指導を開始したんです。

――なるほど。満を持してのバッティング指導。具体的にはどんなことをしたんですか?

八重樫 稲葉とマンツーマンで取り組んだのは、ひたすらティーバッティングをすることでした。最初は普通のトスを上げていって、最終的には彼の右肩を目がけてボールをトスする。それまでのように、キャッチャー方向に肩を入れすぎるとバットを振ることはできず、自分にボールが当たってしまうんですよ。

――身をもって、正しいスイングを身につけさせようとしたんですね。

八重樫 稲葉には何度も「肩を入れすぎたらバットは振れないぞ。我慢して、我慢して、下半身をひねってごらん」と言いました。その次は、彼の顔を目がけてボールを上げて、「これを上手にさばいてごらん」と何球も何球も振らせていく。すると、右肩を入れすぎることなく、少しずつバットが内側からスムーズに出るようになっていったんですよ。

――すぐに成果は出たんですか?

八重樫 試合ですぐに結果が出たというわけじゃないけど、どんどんいいスイングができるようになっていったし、インコースの速いボールに振り負けることも減っていきました。「これで大丈夫だろう」という手応えはありましたね。

――稲葉さんは努力家で、真面目で、練習熱心だと聞いたことがあります。

八重樫 稲葉の場合はね、朝早くから練習を始めて、最後までやめないんですよ。若手の頃はもちろん、中堅選手になってからもその姿勢はずっと変わらなかった。僕も、若手の頃は死ぬ気で誰よりも練習をしたという自負があるんだけど、稲葉の場合は僕と比べ物にならないぐらい練習していました。

――どれぐらい練習するんですか?

八重樫 試合がない日はもちろん、朝から夜遅くまでだけど、試合がある日も午前11時には若手たちと一緒にグラウンドに出て、試合に出て、試合後も深夜までマシンを打ったりすることはよくありました。「おい、もういいから、ちょっとは休め」と言ったのは、後にも先にも稲葉だけでしたよ。

――ぜひ次回も、稲葉さんについての思い出話をお聞かせください。

八重樫 じゃあ、次回は一連の中田翔騒動を見ていて感じた稲葉のことをお話ししましょうか。次回も、どうぞよろしくね。

(第83回につづく)

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