ヤクルト野村克也監督と交わした「稲葉篤紀の打撃」論。八重樫幸雄はどう納得させたのか (2ページ目)

  • 長谷川晶一●取材・文 text by Hasegawa Shoichi
  • photo by Kyodo News

【野村克也を納得させた中西太理論】

――それで八重樫さんは何と答えたんですか?

八重樫 彼らに共通していたのは、バックスイングの際に上半身から始動してタイミングをとっていたことなんです。それによって、前の肩(右肩)がホームベースに重なってしまって、インコースの速いボールが一瞬だけ隠れてしまって差し込まれてしまう。だから、それを克服するためには、最初に下半身を絞ることでバックスイングをとるようにすればいい。そんなことを話した記憶がありますね。

――まさに、八重樫さんや若松勉さんがしばしば口にする太ももの内側、内転筋を絞ることで上半身に連動して力を伝えていく「中西太理論」ですね。それを聞いて、野村さんはどんな反応を見せたんですか?

八重樫 じーっと黙って2分ぐらい考えたまま、何も返事がないんです。その日はそれで終わりました。

――何か、とても気になりますね(笑)。

八重樫 次の日も神宮で二軍、一軍の試合があって、また野村さんが僕のところにやってきました。そして、「昨日の話だけどな......」と、野村さんなりのバッティング理論が始まったんです。それで、僕も身振り手振りで実演しながら、「下半身主導で上半身を絞っていけば、肩が入りすぎることはなくなります」と説明をしたら、野村さんはまたしばらく考えて、「おぉ、そうだな」って納得してくれたんです。

――三冠王を獲得した野村さんを納得させるのは大変なことですね(笑)。

八重樫 野村さんの場合は「こうじゃないですか」って言うと、「何を生意気なことを言っているんだ」って、絶対に怒るんです。南海時代から長年、野村さんに仕えていた松井(優典)さんが監督に意見したら、「誰が監督や。お前が監督になるんか?」って怒られているのをよく見ていましたから。だから、野村さんに何か意見をする時には「これこれだから、こうなるんじゃないですか?」と諭すように言うと、きちんと話を聞いてくれるんですよね。僕なりの学習成果が発揮された場面でした(笑)。

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