2021.06.24

守備力で選ぶ「歴代捕手ベスト10」。大矢明彦が「私など足元にも及ばない」と評価したNo.1は?

  • 菊地高弘●文 text by Kikuchi Takahiro
  • photo by Sankei Visual

1位 谷繁元信(1989~2015年/元横浜ほか)

 私が横浜(現DeNA)のバッテリーコーチに就任した1993年、谷繁はプロ入り5年目で定位置を確保したとは言えない状況でした。驚いたのは、捕手・谷繁に対する周りの評価が思いのほか低かったこと。それは本人も感じていたはずで、「どうせ俺なんてダメなんだろう?」という思いもあったでしょう。

「自分本位なリードをする」と見られていましたが、それは当たり前です。プロに入るような選手は、誰もが「自分が一番うまい」と思っているのです。経験のない選手ならなおさら、そんな思考に陥ってしまうものでしょう。

 私が厳しく鍛えたから谷繁が一人前に育ったと言っていただくこともありますが、私は100パーセント、谷繁自身の頑張りだと感じています。指導者はヒントや提案を与えられても、結局最後は選手自身がどう考えを広げていくか。谷繁は与えられた1つのヒントから、いろんな方向に考えを広げて自分のものにしていった。私など足元にも及ばない捕手になってしまいました(笑)。

 谷繁はFA宣言をして、2002年から中日に移籍しました。私は2007年に再び横浜の監督に就任しましたが、若い選手がこんなことを言っているのを聞きました。

「谷繁さんがキャッチャーをやっていると、何が来るかわからないからイヤだ」

 かつて古田が相手打者から嫌がられていたように、谷繁もそんな存在になったのだなと感慨深かったです。中日に移籍したことで、川上憲伸ら好投手とバッテリーを組むなかでさらに勉強したのでしょう。投手がいいと、捕手のリードには「遊び」が生まれます。配球の幅が広がり、勝負の仕方のバリエーションが増える。

 対戦相手の監督としては、非常にやりづらい捕手でした。中日戦では、いつも谷繁に軽くあしらわれていた印象が残っていますね。通算3021試合出場のNPB記録を持っているのですから、文句なしの1位選出です。

 近年は野球の試合の進め方が変化してきており、一昔前のような「頭脳派捕手」と呼ばれる存在が少なくなってきました。先発投手は打者2巡程度で交代し、球速150キロを超えるパワーピッチャーが次から次へとリリーフに出てくる。試合全体を通してリードを考え、捕手が「撒き餌(まきえ)」をする必要性がないのです。

 とはいえ、現役捕手で成長を感じるのは梅野隆太郎(阪神)です。私が感心するのは、投手に対して「ここは絶対にボールにしてくれ」などと意思表示をしっかりとすること。打者をどのように打ち取るか、明確に考えている証拠です。私のなかで、「もっとも捕手らしい捕手」と評価しています。


【Profile】
大矢明彦(おおや・あきひこ)
1947年、東京都生まれ。1969年ドラフト7位でヤクルトアトムズ(現・ヤクルトスワローズ)に入団し、1年目からレギュラーに定着。1978年には正捕手としてヤクルト球団初のリーグ優勝に貢献した。1985年に現役を引退し、横浜ベイスターズのバッテリーコーチを経て、1996〜1997年、2007〜2009年に横浜の監督を務めた。現在はフジテレビ・ニッポン放送の野球解説者などで活躍。

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