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崖っぷちのドラ1田中正義がついにブレイクか。「自分に対して、いい加減にしろよ」 (2ページ目)

  • 中島大輔●取材・文 text by Nakajima Daisuke
  • photo by Jiji Photo

 それでも10月に復帰すると、ウエスタンリーグ最終戦で類い稀な才能を発揮する。9回にマウンドに登り、150キロ台を連発したのだ。

「あの試合は人生で一番いい真っすぐが行っていました。自分がああいうボールを投げられるんだなというのが、正直な感想です。だったらもう1回、イチからがんばらなきゃダメだなって」

 全盛期の藤川球児(元阪神)のごとく、力で相手打者をねじ伏せた。

 威風堂々と持ち味を発揮できた裏には、明確な理由がある。この年限りで退団を発表していた内川聖一(現ヤクルト)のセレモニーが試合後に予定され、いつも以上に気合いが入ったからだ。

 マウンドを降りた田中は内川に挨拶に行くと、予期せぬ言葉をかけられた。

「お前以外のみんなが"お前はできる"と思っているのに、お前だけがその可能性を閉ざしている」

 がんばれよ、と言われるくらいだと思っていた。それをはるかに上回る激励を受け、がんばるしかない、と気合いが入った。

 一軍未勝利のまま大卒4年を終え、クビがつながった今季。田中は私生活からグラウンドまで、意識的に行動を変えた。

 たとえばノックでは、先頭に並んで大きな声を出す。野球界の"ど真ん中"を行く者にすれば、当たり前のことかもしれない。しかし、身長187cmの控えめな男にとって、大きな一歩だった。

「自分っぽくないなということを春季キャンプからするようにして、例年とは違う景色が少しずつ見えてきました。さらに違う景色を見ようと、もがいている感じです」

 口を開けば後ろ向きなセリフをこぼした男が、日々、前向きに取り組むようになった。周囲はそんな姿を目の当たりにして、「明るくなった」と感じている。

「(今までの自分とは)変わっていると思います。ネガティブな発言をしたところで、プラスはひとつもないじゃないですか」

 15カ月前、プエルトリコで会った頃とは別人のような言葉だ。あれほどネガティブだった男は、なぜ、変わることができたのだろうか。

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