宮西尚生の偉業を支えた常識破りの投球術。
「使えねぇな」から屈指のリリーフへ (3ページ目)
ボールを使って自らの投球術について話す宮西 photo by Yasushi Ohta◆衣装がセクシー&キュート!ライオンズの美女パフォーマーたち
当時も今も、プロの世界では驚くようなボールはない。ストレートの球速は140キロ前後。しかも、あるデータによると、2019年シーズンで投げた球種の割合はストレート53%、スライダー46%、シンカー1%だった。
それ以前のシーズンも、年によってシンカーの割合が多少上がることはあるが、ストレートとスライダーの比率はほぼ1対1だ。13年もの間、幾多の強打者を相手にふたつの球種でアウトを重ね、勝利をたぐり寄せてきた。そこに宮西のすごみを感じる。
ふたつの球種を徹底して磨いたことは言うまでもない。そこに新たな武器が加わったのは、本人の記憶によれば6年目のこと。2年目以降も50試合以上の登板を続けていたが、相手打者が自分のボールに慣れてきていることを感じ、不安を覚え始めていた頃だった。
同時期、宮西は左ヒジに違和感があった。密かに治療を続けながら、ピッチング練習ではできるだけ痛みが少なくなる腕の振りを模索していた。すると、リリースの位置をずらしても安定したボールを投げられることに気がついたのだ。
投手指導では、テイクバックやリリースポイントに関して、腕の部分を触るなどして投手が意識してしまうとフォームを崩すという声もある。しかし宮西は、極端に言えば1球ごとにリリースの角度を変えても投げられるのだ。実際には、どれくらい位置を変えるのか。
「自分の感覚では5〜10センチですけど、実際にはおそらく2、3ミリです」
そんなわずかな差で、本当に効果があるのだろうか。
「いい打者ほど、微妙な差に気づいて反応してくる。プロの一線級の打者は、自分の狙ったところに芯をもっていく天才で、球を捉えるための目も優れています。だから、わずかな差に気づいて『あれ、いつもと何かが違う』と感じてくれたら、それだけでも僕にとってはプラスなんです」
マウンド上での2、3ミリの差は、キャッチャーにボールが届くまでの18.44メートル先では数センチの差になる。それは、同じ球種でも違うボールに感じさせる技術。ミリ単位のズレが結果を左右する勝負を、有利に運ぶ術を手に入れたのだ。
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