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宮西尚生の偉業を支えた常識破りの投球術。
「使えねぇな」から屈指のリリーフへ (2ページ目)

  • 谷上史朗●文 text by Tanigami Shiro
  • 寺崎江月●協力 cooperation by Terasaki Egetsu

 初日の投球練習が終わったところで梨田昌孝監督(当時)に呼ばれ、腕を下げて投げるよう指示を受けた。フォーム改造、つまり、「今のままでは通じない」ということだ。もっともこれは、宮西の指名を後押しした山田正雄元GMの「大学2年の時の状態が一番よかった。あの時のフォームに戻せば化けるかもしれない」という進言を受けてのものだった。

 事情を知らない宮西は少なからずショックを受けたが、梨田監督の指示をすんなり受け入れた。その理由を、宮西は次のように語る。

「大学4年の時に思うような投球ができなくて、プロ入り当時は不安しかありませんでした。ブルペンで先輩投手たちのボールを見ても、レベルの差は明らか。自信を失ってのプロ入りでしたから、現状を素直に受け入れて、フォームの修正にも前向きに取り組めたんでしょう」

 もうひとつのダメ出しも、このキャンプ初日に受けた。ブルペンでスライダー、カーブ、パーム......と持ち球を投げたあと、捕手を務めた鶴岡慎也の第一声は「使えねえな」だった。あらためて口にされるとこたえたが、続けてのひと言が宮西にとって救いになった。

「使えるのはスライダーだけだ」

 大学時代からの決め球が、プロの世界でも命綱になった。終わってみれば、サイドスローにフォームを変えた宮西は1年目でシーズン50試合を投げ、2勝4敗8ホールドという成績を残した。

 そこから積み上げたホールド数は、歴代1位となる356(9月19日現在)。宮西は折に触れ、厚澤和幸、吉井理人といったコーチ陣に対する感謝の言葉を繰り返してきたが、市立尼崎高校時代から彼を知る筆者は、「あの宮西が......」という思いを年々強くしていった。

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