藤川球児が覆した野球の定説。「低めより高めで勝負」を技術で遂げた (2ページ目)

  • 安倍昌彦●文 text by Abe Masahiko
  • photo by Kyodo News

 じつは高めは、打者にとって打ちづらいゾーンなんじゃないか......藤川のピッチングを見て、そう確信した。

 ただ、だからといって、誰もが藤川のようなピッチングをできるわけではない。あの高さのボールは少しでもコントロールミスすると、じつに危険な球なのだ。それでも藤川が果敢に攻められたのは、あれだけのスピードと強烈なバックスピンをボールにかけられていたからだ。

 投手たちの球速は、時代とともにぐんぐん進化している。以前は、高校生が140キロを投げれば、それだけで記事になるほど希少だったが、今は140キロを投げたって誰も驚かない。それどころか150キロを投げる投手も次々に登場し、プロになれば160キロも未体験ゾーンではなくなっている。

徹底した食事管理とトレーニングで筋力を上げていけば、140キロを150キロにするのは可能だ。しかし、140キロや150キロの球が簡単に当てられ、弾き返されるシーンが何度もあった。

 だが、野球はスピードを争うスポーツではない。打者を圧倒するには、"表示速度"ではなく"体感速度"が大事なのだ。

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 同じ150キロでも、藤川のボールとほかの投手のそれとは何が違っていたのか。それがボールの回転数と回転軸の向きである。回転軸の向きとは、ボールの"地軸"が地面に対して水平に近いほど重力に逆らっているわけで、つまり多くの打者が口を揃えていた「藤川のボールはホップしている」の正体である。

 わかっていても空振りを奪えるストレートを投げられる理由は、パワーだけじゃない。投げる"技術"だ。そのことも藤川のピッチングから教えてもらったような気がした。今シーズン限りの引退は寂しいが、藤川のピッチングはいつまでも色褪せることはない。

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