心技体が崩れていった多和田真三郎。類まれなる才能を持つ18番の復活に期待 (5ページ目)

  • 中島大輔●取材・文 text by Nakajima Daisuke
  • photo by Jiji Photo

 勝てずに焦る気持ちを抑え切れず、投球フォームを乱し、ボールをうまく操れない。「心技体」が崩れた。

 翌日に登録抹消。7月20日に再登録されたものの、前年の輝きを取り戻すことはできなかった。3試合続けて打たれ、再び二軍降格。以降、戦線に戻ることはなかった。

 チームがリーグ連覇へ向けて突き進んでいた9月10日、頻脈性不整脈を患っていることが発表された。そしてシーズンオフの12月、心身のバランスを大きく崩していることが伝えられる。

 沖縄生まれの朴訥な男は、マイペースな性格なのだろう。投手という、いい意味で自分本位で生きられる場所で類(たぐい)まれな才能を発揮し、2018年には最多勝を獲得した。

 だが、多くを背負って臨んだ翌年、さまざまな歯車が噛み合わず、小さな綻びから大きな傷に至った。

 自律神経失調症から復帰することが、どんなに大変な道であるかは想像できない。ひとつだけ言えるのは、心身の土台をつくり直すことが不可欠だ。周囲の視線にさらされるなか、競争社会を勝ち抜くメンタルの強さも求められる。そのうえで、初めて一軍で勝負していくことができる。

 ポテンシャルはプロでも最高峰だ。だからこそドラフト1位の評価を受け、最多勝という形で自身の能力を証明した。まだ27歳。今後プロの世界で長く活躍するためにも、心技体の好循環を長く回し続けることが求められる。

「家族の支えがあって、ここまで来ることができました。これからは家族のため、そして球団のため、一生懸命、責任を持ってがんばります」

 7月30日、支配下選手契約を結んだ多和田は、球団を通じてそうコメントした。プロ野球は勝負の世界であり、慈悲をかけられての契約ではない。球団は再び戦力になる可能性を見出しているからこそ、支配下契約したのだろう。

 チームの先発陣が伸び悩むなか、去年までエース候補と期待された男は静かに復活への道を歩み始めた。勝負の世界で与えられたチャンスは、自身の手で掴み取るしかない。

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