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平石洋介の葛藤。愛する楽天と東北を
去ることになっても貫いた信念 (5ページ目)

  • 田口元義●文 text by Taguchi Genki
  • photo by Koike Yoshihiro

 だからといって、感情的になるわけではない。

「自分本位で決断するのはフェアではない」

 常にそう言い聞かせてきた。だから、家族を最優先に考えた。妻には球団から伝えられた新たな契約内容を説明し、自分の根っこに息づく感情を伝えたうえで意見を求めた。

「俺の気持ちは一切抜きにして、来年の生活のことだけを考えて言ってほしい」

 しがみつくな、という想いは、あくまでも平石の信念だ。それを貫き通すことによって家族を犠牲にしていいなどと思うはずがない。妻は、腹をくくった平石を尊重してくれた。

「自分の気持ちに素直になったら」

 迷いは、消えた。

「わかった。辞めるわ」

 覚悟を決めた平石には、もうひとり意志を伝えなければならない人物がいた。PL学園時代のコーチで、「家族以外で真っ先に相談する人」と全幅の信頼を寄せる清水孝悦(たかよし)である。

 まだ明確な答えを出していない時期に、「辞めようとは思っています」と報告した際には、清水からこう告げられていた。

「お前が決めたことやから辞めるのは構わない。ただ、これだけは言っておくぞ。野球人にとって、野球がなくなるのは想像以上にダメージが大きいぞ。野球の偉大さをまざまざと痛感するぞ。だから俺は、平石には野球界にずっと携わっていてほしい」

 平石は、清水が野球部を守るために学園の経営陣と戦ってきたことを知っている。そんな情熱の男がPL学園を去らざるを得なかった無念が、痛いほどわかる。だからこそ平石は、清水の自分に対する想いも背負うと決めた。

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